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背筋さんの『口に関するアンケート』は極端に小さなサイズと64Pと短い中に詰め込まれた仕掛けが話題を呼びました。(『口に関するアンケート』の制作秘話はこちら
今回は、それに続く小さい本第二弾『目が』の装丁ができるまでを、前後編に分けてご紹介します。

※一部内容に触れていますので存分に楽しみたい方は、書籍読了後の閲覧をおすすめします。

ヒット作の第二弾のプレッシャー

 

ヒット作の第二弾はむずかしい。
書き手の方はもちろんですが、それは装丁にも言えることです。
第二弾の依頼がきたとき、一番に思ったのは「さて、困ったぞ」でした。
まず頭に浮かんだのは、読者がすでに前作の驚きを知っている、ということでした。

▲ 手のひらサイズの『口に関するアンケート』


あの特殊なサイズ感がもたらした初見の驚きは、すでに読者の中で「前提」になっています。
同じ判型で作る以上、前作と同じ切り口でアプローチすれば、どれだけクオリティを高めても「前作ほどの衝撃はない」と判断されかねません。
だからこそ、作り始める前に三つの条件を自分に課しました。

 

1.前作と同等以上のインパクトを持たせること――並べたときに見劣りさせない

前作『口に関するアンケート』は、清水崇監督による映画化が決定しており、第二弾の発売は映画公開直前というタイミングでした。書店では特設コーナーが作られ、『口』と併売される可能性が高い。
ヒット作の横に並ぶのは、目に留めてもらえるチャンスであると同時に、比べられる運命でもあります。「地味になった」「パワーダウンした」と感じさせては負け。並んだときに「1作目と同じくらい、いや、それ以上に面白そうだ」と期待を持たせる必要がありました。

2.前作と同じ表現手法を使わないこと――二番煎じによる『慣れ』を避ける

判型は、前作と同じ小型判で続けることが決まっていました。これは、前作で得た注目をシリーズとして引き継ぐための選択です。ただし、読者は「小さいことによる衝撃」をすでに体験済み。二度目は、それだけでは驚きになりません。
そこで今回は、サイズ感をシリーズの継続性を示す装置と割り切り、ビジュアルの切り口やデザイン表現はまったく違うものにする方針をとりました。
もちろん、ヒット作の第二弾では、あえて前作のデザインを踏襲して統一感を出す戦略も正解のひとつです。けれど、背筋作品の魅力はやはり「驚きや意外性」。読者も「次はどうくるか」という、いい意味での裏切りを求めているはずです。実際、小説も第二弾と謳いつつ、前作とは異なる切り口のホラーになっています。
判型で統一感が保たれている分、グラフィックでは予想を裏切る。そのほうが読者の期待に応え、本の価値を高められると考えました。

 

3.『この判型だから映える』デザインにすること

せっかくの特殊判型です。このフォーマットだからこそ活きるデザインを模索することにしました。

 

『意味を説明するデザイン』から
『体験をつくるデザイン』へ

 

最初に届いたのは、小説のプロットでした。テーマは「視線」「見ること・見られること」。
この時点では、まだタイトルは決まっていません。

まずはデザインを考えるのではなく、この話の怖さはどこにあるのか、読者はどの部分をどのように面白がるのか、物語はどんな構造なのか、ホラージャンルの中でどんな立ち位置になりそうか――作品とその周辺を考え、掘り下げていきます。
いわば、アイデアの種になりそうなものを拾い集める段階です。具体的なことを決めるというより、作品を飲み込み、咀嚼し、どんな味がするのかを確かめていく作業に近いかもしれません。

 

そのうえで、デザインの方向を探るための「ラフのラフ」を作ります。アイデアスケッチのようなものです。私の場合、これは手描きではなく、直接データ上で作っていきます。頭の中を広げるように、思いつくまま形に起こしていきます。

 

最初は、作品の持つ「意味」をどうビジュアルに落とし込むか模索していました。

  • Aだと思ったらBだった、という騙し絵やトリックアートのような構成はどうか
  • 見るだけで視線の圧を感じるようなもの
  • 主体と客体が入れ替わる表現として、鏡面に読者の顔が映り込むもの
  • 読者に呪いをためさせる、ポイントカード風のデザイン etc……

 

▲ ラフのラフの一部

 

でも、意味やストーリー、仕掛けを直接表現しようとするほど、デザインは「説明的」になってしまいます。説明的なデザインは、理屈が通っていても、瞬間的な視覚インパクトを削いでしまう。
書店で一冊の本に目が留まる時間は、ほんのわずかです。
あまりに説明的なデザインでは、行き交う人の目に届きにくい。これは、条件1の「前作以上のインパクト」を損なうリスクがありました。
そこで、アプローチを変えました。プロットの意味は頭に入れたうえで、ビジュアルの検討からは、その「意味」をいったん切り離す。
代わりに、「書店の棚にどんな絵面が並んでいたら、人は違和感を覚え、思わず足を止めるか」という純粋な視覚体験から考え始めました。
『口に関するアンケート』の隣にどんなビジュアルが並んでいたら気になり、手に取りたくなるか、という視点への転換です。
頭の中で書店を歩いてみます。何も知らずに目にした時に「これはなんだ?」「なんか気になる」「なんか売れそう」そんなふうに惹きつけるものがあるかどうか。

 

 

「書店での違和感」から逆算しつつも、事前に作品のコンセプトを深く消化しているため、検証を進める中で、ビジュアルに自然と意味を乗せ直すことができます。
物語の理解(インプット)と視覚的インパクト(アウトプット)を、あえて一度分離する。
そうすることで、双方を満たす強いデザインに着地できました。

 

『わかること』と『わからないこと』の同居


小説のビジュアルを考えるとき、物語を知らない人が初めて見ても理解できること――「入り口」と、すぐには理解できないこと――「引っかかり」の両方を盛り込むようにしています。
人は、「わかること」と「わからないこと」が同時にあるとき、興味を惹かれます。何もわからなければ拒絶を感じ、入りづらい。反対に、すべてがわかってしまえば、探りたくなる余地がなくなるからです。
たとえば、すべてが抽象的なモチーフだと、解釈を読者の想像力に委ねすぎてしまいます。普段あまり本を読まない人には、「難しそう」「自分にはわからない」と、かえってハードルを上げかねません。今回の本には、そうした人にも届く「新たな入り口」にしたいという狙いがあったため、突っぱねるようなデザインは避けたいと考えました。

前作『口に関するアンケート』でいえば、誰もが「口紅を塗った口のアップ」だと一目で理解できます。でも、「なぜここまで極端なアップなのか」「なぜ画像が荒いのか」という、わからない部分――問いも同時に存在していました。
今回の『目が』も同様です。「目に赤いペンキを塗られた白い像がある」という状態自体は、誰でも認識できます。これが、わかる部分です。

  • なぜ、目にペンキが塗られているのか?
  • なぜ、像は横を向いているのか?
  • タイトルの配置には、どんな意味があるのか?

そこには、こうした疑問――わからない部分が残ります。

わかることと、わからないこと。
この二つの同居が、手に取って確かめたいという興味を生み出します。

 

デザイナーとしての視点を捨てる


いくつかの方向性が出たところで、経過案も含めて著者の背筋さんと編集者に共有し、この本で何を表現したいのかをさらに明確にしていきます。意見交換の中から、新たなアイデアが生まれることも少なくありません。
最終的に「目」のタイポグラフィのインパクトが強い案が選ばれました。

では、なぜこの案に強いインパクトを感じるのでしょうか。
最大の特徴は、文字の大きさです。
通常、四六判などの標準的な書籍で文字を極端に大きくすると、視界に収まりきらず、文字として認識しにくくなります。特に「目」という漢字は、拡大しすぎると、文字ではなく「ただの枠線」に見えるリスクがあります。
ところが、この本は判型そのものが小さいため、表紙全体を視界に収めやすい。そのため、版面いっぱいに一文字を置いても、読者は「文字」として認識できます。手に取る距離で識別できる限界近くまで大きくしながら、表紙全体を占領させることで、「極端に大きな文字」という印象を与えられるのです。
つまり、「(本が)極端に小さいこと」と「(文字が)極端に大きいこと」という、二つの極端が同居しているデザインです。その文字の間から、意味深な像がのぞいている。多くの本が並ぶ店頭では、この異質さが強いフックになります。

ただ、制作中にこうした分析を細かく計算しながら作っているかというと、実はそうでもありません。「タイトルを限界まで大きくしたらどう見えるか」「見慣れない状態とは何か」を実験する中で、生まれてくるものです。
行き詰まったら、まず単純な試みをやってみる。そして、一度デザインから距離を置く。デザイナーとしての専門的な視点をいったん捨て、「一人の買い物客として、店頭でどう感じるか」に立ち返る。その繰り返しです。
こうしてそこから細かな調整を重ね、表紙のビジュアルが決定しました。

 

タイトル決定より早かったデザイン


実は、最終的なタイトルが決まったのは、デザインが固まった後でした。
タイトルは『目が』に決定しましたが、編集者と背筋さんも「目」の文字の大きさとインパクトを気に入ってくださっていました。そこで、その印象を崩さないよう、「が」はかなり小さく添えています。
この配置では、初見で「が」を見落とし、タイトルを正確に読まれない可能性があります。通常、出版デザインでは「タイトルが読めない」状態は避けるべきです。しかし今回は、初見のインパクトを優先しました。
こうした選択ができたのは、背筋さんの知名度や作品の話題性、POPなどにタイトルが明記される店頭展開を総合的に考えた結果です。

何を優先するかは、状況によって変わります。ただ、エンタメ小説の目標はいつも、多くの人に手に取ってもらうこと。デザイナーは、そのときどきで最も効果的な方法を模索します。

 

つづきます→→【後編】デザインが先か、紙が先か。それが問題だ