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表紙のデザインが決定。しかしここからまだ印刷・加工の検討という工程が待っています。
『目が』の紙、そして印刷・加工はどのような検討がされたのでしょうか。
※前編はコチラ

実は何よりも早い『紙』事情

 

実は今回、小説そのものの完成やタイトル、デザインより先に決める必要があったものがあります。それが「紙」でした。デザインが未定の段階で決めるのはとても難しいことですが、今回は特殊判型であることに加え、大部数での発行となるため、かなり早い段階で紙の在庫を確保する必要があったからです。用紙不足や価格高騰が続く昨今、デザインの確定を待っていては印刷に間に合わない、という現実的な事情がありました。

この制約のもとで、考えるべきことは二つです。

  • ・どのようなデザインになっても対応できる汎用性を持たせること
  • ・無難な仕上がりに逃げず、前作以上のパワーアップ感――攻めの姿勢を出すこと

 

編集者との初期打ち合わせでは、「読者自身が映り込み、自分と目が合う、鏡のような表現」というアイデアが出ていました。何か前作と違った特別感も出したい。そこで、アルミ蒸着紙の採用を検討しました。
アルミ蒸着紙とは紙にアルミを蒸着させた薄いフィルムを貼り付けたもので、表面が銀色の鏡のような光沢面、裏面が紙の白色になります。銀の面にも印刷ができますし、また白い面を表紙側に使えば通常の印刷ができ、表2・表3(――表紙と裏表紙の内側――)を銀面にすれば、本文を挟んだ「合わせ鏡」のような状態も作れる__。
どこかに自分が映る・反射するという状態は『視線』という作品のテーマともリンクしそうですし、どのようなデザインに着地しても面白く活かせるだろうと判断し、価格や在庫量なども検討の結果、「「ハイラッキー KY 14kg 米坪230g/m²」」という紙にアルミ蒸着PETフィルムを貼り付けたものを使用することに。製作部の方による見積もりと提案にも、大いに助けられました。

通常は「デザインに合った紙を選ぶ」のが定石ですが、今回は「先に決まった紙を、デザインでどう活かすか」という逆のプロセスになったのです。

 

白版と疑似エンボスによる『質感のコントロール』


アルミ蒸着紙は、白版(――白いインクの下地――)を敷かない部分が金属のように光り、白版を敷いた部分は光沢が抑えられます。さらに、疑似エンボス加工(――ニスで表面に凹凸感をつくる加工――)を加えることで、見た目だけでなく手触りにも変化をつけられます。
どこを光らせ、どこをマットにし、どこに疑似エンボスを効かせるか。その組み合わせによって、印象は大きく変わります。

今回は、CMYK(4色)+白版+疑似エンボス版を組み合わせて検証しました。使う版の種類と数が同じなら一度の印刷工程で複数のパターンを試せます。そこで、加工の入れ方を変えた5種類のデータを作成しました。

 

このデータで色校正を出してもらった結果がこちらです。


▲ タイトル、著者名、像(目のペンキ部分除く)に白押さえ。目のペンキ部分に疑似エンボス。
遠目には文字が目立ちやすい。一方で、像と文字の前後感が弱く、一体化する。

 


▲ 像のみ白押さえ。文字以外に疑似エンボス。
文字は沈んで見え、背後の像が浮き出て見える。前後関係がバグるような構成。

 


▲ 像と文字に白押さえ。文字に疑似エンボス。A案と似ているが、目のペンキ部分、および疑似エンボスを入れる箇所が異なる。
像と文字のシルエットが一体化し、同時に見える。

 


▲文字以外に白押さえと疑似エンボス。
文字の層と絵の層がはっきり分離し、ビジュアルも見えやすい。

 


▲文字のみに白押さえと疑似エンボス。
遠目には文字だけが浮かび上がり、暗い中に像がぼんやり見える。

 

「目」のタイポグラフィを立たせるべきか、背景のビジュアルを強調すべきか。
表4――裏表紙――の仕掛けは、どこまで見せるのが適切か。
『口に関するアンケート』と並んだとき、どう見えるか。
著者の背筋さん、編集者とともに検証し、最終的に採用したのがD案です。
最も重要だった点は店頭で遠目にも目立つこと。
全体に白版を敷いて石膏像をはっきり見せつつ、タイトルと著者名の部分だけ白版を抜いています。これにより、文字部分だけが光り、疑似的な箔押しのような効果が生まれています。
文字と、背景を含む写真との前後関係が明確になり、奥行きが生まれ、読者が「目」の文字の間から奥をのぞく感覚が生まれます。同時に、向こう側から像もこちらをのぞいている。
作品のコンセプトにも合う仕上がりになりました。

 

こうして、数々のプロセスを経て、一冊の本の装丁が完成しました。

 

おわりに

 

今回の制作には、多くのイレギュラーと発想の逆転がありました。それらは意図して行ったものもあれば、偶然や、用紙の準備期間、スケジュール、印刷上の制約といった不可抗力から生まれたものもあります。
制約や予期せぬ条件を、どうすれば本を面白くするきっかけに変えられるか。それは、装丁デザインという仕事の醍醐味のひとつなのかもしれません。

 

『目が』の購入はコチラ

 

bookwall デザイナー 村山百合子(むらやまゆりこ)
主なデザイン担当作『口に関するアンケート』(背筋 著)、『拾得物 南贍部学園生徒手帳』(梨 著)、『ジウThe Next』(誉田哲也 著)、『府中三億円事件を計画・実行したのは私です。』(白田 著)、「小学生なら知っておきたい教養366」シリーズ(齋藤孝 著)、『いつもの木曜日』(青山美智子 著)、『余白』(岸井ゆきの 著)、『プロだけが知っている小説の書き方』(森沢明夫 著)など。