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「ALWAYS三丁目の夕日」「STAND BY MEドラえもん」など多くの映画を手掛ける映画監督・山崎貴さんの感動ファンタジー「ジャック・オー・ランド ユーリと魔物の笛」
この作品の担当編集者・ポプラ社門田菜穂子さんに制作秘話をお聞きしました。

-今回は絵本ということですが、絵本と一般書籍との違いはありましたか?
 
絵本は好きで読んではいたんですが、実は担当するのは初めてだったんです。個人的にずっと難しいと思っていたことがあって。たとえば、漫画っぽいスタイルの絵を描く人から、絵本をやりたい、と相談をうけることがよくあるのですが、どうやったら絵本の絵になるのか、わからなかったんです。イラストと絵本の絵の境界線がどこにあるのかずっと考えていたので、今回も絵本作家ではない方に描いてもらうということで、編集としてうまくディレクションできるか緊張しました。
 
-今回絵を担当してくださった郷津春奈さんは、指名だったんですか?
 
いえ、実はこの企画は、10月21、22日に開催される(終了しています)『ジャック・オー・ランド』というハロウィンイベントのために山崎監督が書き下ろしたストーリーがあって、それを絵本にしないかとご提案いただいたところから始まっているんです。原稿を読ませていただいて、これだったらどういう絵がいいかなぁと考えて、ファンタジーが描ける人で、ディテールも描き込める人の方がいいねと。イベントがあるので、グッズ展開などもできるようにキャラクター力も必要だなと。ただ、大人が楽しむものではなくて、子どもが楽しめる絵本にしたかったんです。当初は普通に絵本作家さんを考えていたのですが、最初にいただいたストーリー原稿の中に、一枚の絵が挟まっていたんです。誰が描いたものかすぐにはわからなかったんですが、実は山崎監督がこの作品のために描き下ろしたものだったんです! それを知ったときに、「山崎さんにはご自身の絵のイメージが結構ありそう」と感じたんですね。もしかしたら、画風が確率されている絵本作家さんでなく、アニメーターさんにお願いして、監督のイメージを活かして描いてもらうのがいいかもしれないと思ったんです。ちょうどこの作品の話をいただく前に知り合ったアニメのプロダクションの方に相談したところ、紹介していただいたのが郷津さんだったんです。「絵本を描きたい!」と言っている若手のアニメーターさんがいると。
 
 
-そこから絵柄はすんなり決まったんですか?
 
決まるまでは結構いろいろありましたね。郷津さんに、デフォルメの強いかわいい系のタイプ、描き込み多めの線で雰囲気あるタイプ、その中間、など何種類もの絵柄でキャラクターを描いてみていただいたり。最終的に、山崎さんのイメージをうかがって、参考資料や画集なども見せていただきながら、アニメのように完成させすぎない、ラフさや崩し、非対称性を残しつつキャラクター性もある、こんな絵柄にしよう、ということになりました。その時に、下描き線を生かすために、「2色印刷でやってみようか」という話も出てきました。
 
-これを2色でやれるのかな?と思いませんでしたか?
 
そこは心配していませんでした。2色印刷の精度が良いことを知っていたので…。むしろうまくいけばオシャレな感じになりそうだなと。
 
-確かに最初はどうなるかと思いましたが、あがってきたのをみると精度が高かったですね。
 
判型についても検討しました。大判の絵本のつもりでいたのですが、読んでみると、結構文章量があるなぁと…。そこで、絵本だけれど読み物にちかいものにしようと思ったんです。『エルマーとりゅう』みたいに。そうすると、文字だけのページがあって、全ページ全面に絵が入ってなくても成り立つのではと…。でも不思議なもので、この『ジャック・オー・ランド』って、『かいけつゾロリ』とも同じ判型なんですよ。全く別のものに見えませんか?
 
-全然気が付きませんでした!そうだったんですね。厚みが違うから気づかなかったのでしょうか?
 
厚みが違うだけでこんなに感じ方が違うのか、と思いましたね。
 
-ジャック・オー・ランドは大人でも買える感じがしますよね。
 
そうですね。この絵本はわりとクラシックなイメージで、新刊なんだけど昔からある本、のような感じにしたかったんです。ここまで考えてきて、bookwallさんにもってきました。
 
-そうだったんですね。この話を聞くまでは、こういう企画があってすんなり題材や期間も決まっているものだと思っていました。思いのほか、ここへくるまでに何がどう動いているのか、知らないものだなと今実感しています。
 
そこまでをあれこれ考えたり決めたりするのは、とても楽しい作業ですね(笑)。
 
 
-絵があがって来た時に、これはいけるな!と思ったんですか?
 
私がいけると思ったのは、必要なモチーフを普通に置くのではないカバーイラストの構図に悩んでいて、ご相談したbookwallさんから参考用の画像を送っていただいたときです。装飾模様をメインにした古い洋書のようなイメージ画像をみて、コレだ!!って。あの時みんな思ったんですよ。山崎監督も郷津さんもそれいいですねと。
 
-門田さんは編集者ですがデザイン能力もあるので想像がしやすかったのではと思いますが、こちらのラフのデザインは予想されていましたか?
 
あのイメージが共有できていれば大丈夫、と思って、あとは結構おまかせだったんですイメージともピッタリ合っていましたし、最終的にまわりの装飾もとても素敵でした。タイトル文字と絵をからませたいというのは郷津さんのアイディアで、それにもご対応いただいて。最初にデザインいただいた時、「おおー!カッコイイ!」と声を出してしまいました。
 
-門田さんの思う、絵本とイラストの境界線は、どこにあると思いますか?
 
絵本の絵って、どういう描き方なんだろう、という気持ちで改めていろんな絵本を見ていて途中で腑に落ちたところがあったんです。たとえば、お姫様の出てくる海外の絵本とかをみてみると、お姫様自体の絵はわりとちょんちょんとラフな感じで描いてあったりするんですよ。お姫様の絵本を描こう!と思って描くと、普通はお姫様をキャラクターとしてしっかりと描き込むと思うんですけど、そうではなくて、情景とかシーンを描いているんですよね。そこが違いのヒントになりそうだなと思いました。もちろん絵本のスタイルはひとつに決まっているわけではないので、物語や目的、対象年齢等によって多様であるものだと思いますが。
 
-シーンや情景が大切だということですね。確かに子どもが絵本を読むときに、文字をよまなくてもストーリーがわからないと絵本として成立しませんよね。
 
画風は本当にいろいろですよね。たとえばパースをとって奥行きのある絵にするのか、それとも平面的にするのか。色の塗り方も、濃淡をつけていくのか、均一にセルアニメのようにするのか、画材は水彩か油かパステルか…という風に。そんな話し合いもしました。
 
-2色刷りから後半は4色刷りになるんですが色が入ったことで雰囲気は変わっていきますよね。4色ページもこういう塗り方で、という風に決まっていたんですか?
 
そこは2色のイメージに準ずる感じで、と。急にべたっとなってはおかしいので。
 
-最後はだんだんと明るくなっていって楽しさが増していくのは4色だからできることですよね。
 
最初に原稿をいただいたときに、見せ場になるのは、呪いが解けて街の色が変わるところと、一番最後だと思ったので、そのシーンは絶対カラーにしたいと考えていました。それを念頭に、割り付けをしました。
 
-時間がないのに、すごく描いてくるなとは感じていました。
 
普段、絵本の仕事をしているわけではないアニメーターさんから聞かれて、面白かったことがありました。
 
レイアウトをみせたときに郷津さんに言われたんですが、なんとなく、絵本でも本文の版面を意識して、絵を置いていきますよね。でも郷津さんは「なんでここ(版面外の上や下の部分)空けるんですか?」と。画面いっぱいに使わないことが不思議だったみたいです。
 
 
-もしかするとデザインの観点からいっても、本来自由度があるものを少し制限するところにはいっているかもしれませんね。見る側がかわるとまた違ったように見えるんですね…。これは勉強になりました。
 
新鮮な見方ですよね。なんとなく、読んでいるときに、地平線(版面の下のラインのことをたとえて言った)にそろっている方が、読みやすいと思いこんでいたので。
たとえばコブちゃんがモヤモヤと考えるシーン、最初のレイアウトから置き直してもらいましたが、郷津さんは空間をつくらないつもりで考えていたんだなぁと。
 
-1ページずついろいろと作るときに考えているということですね。
 
さすが映画監督だな、と感じたのは、割付作業で、32ページ見開き構成にした時に、それぞれの見開きで、何の絵をいれたらいいんだろう、と悩むことがほぼなかったんです。話の文字量でページを割っていくと、同じシーンや同じような絵が続いてしまうことってよくあるんですよ。でもそれがないんです。どんどん切り替わるし、ここはこれだ!というイメージがすぐにわいてくるんです。
 
-それは映画監督だからなのか、本来の絵本もそう作られるように描いているのだけれどページ割りをするとそうなってしまうのか。
 
ベテランの絵本作家さんはもちろんそういうことを考えて書かれていると思います。監督はもう天性というか…。
 
-今回のこの絵本には、映画監督やアニメーターなど、絵本を作る人が入っていないと思うんですが、実際に見る人が見ると、絵本じゃないな、という部分が出ているのでしょうか?
 
もしかすると、絵本の常識で考えると、ありえないことをやっているところがあるかもしれませんね。
 
-ゼロから絵本をつくろうとしたら、門田さんはどんなものを作りたいですか?
 
そうですね……、絵本として意味のある、絵本でしか表現できないものを作れたらいいな、と思います。
 
-このジャック・オー・ランドはどういう位置づけになるんですか?
 
このお話は、「ジャック・オー・ランド」というイベントの核となるストーリーです。このイベントは、大人も子どもも、男の子も女の子も、外国の人も、人間も魔物も(笑)、仮装して一緒に楽しもうよ、出会おうよ、というお祭りなんです。仮装をすれば、個人の背景とか属性とか、喧嘩中とか、関係ないですからね。それを絵本の最後で表現しているので、読んでからイベントに来ていただければ、さらに楽しめると思います。
 
-このジャック・オー・ランドを手に取ってくださった方へコメントをお願いいたします。
 
絵の隅々まで楽しんで読んでいただきたいです。そして、毎年このハロウィンの時期になったら読み返して欲しいと思っています。
 

門田奈穂子プロフィール ポプラ社編集者。小学校高学年~YA向けの読み物・小説やライト文芸を主に担当している。

ジャック・オー・ランド作品ページはコチラ

郷津春奈さんFacebook

ジャック・オー・ランドイベント公式HP

ダ・ヴィンチニュースさんでは山崎監督と郷津さんの対談記事が掲載されています。記事はコチラ

ジャック・オー・ランドデザイン特集近日公開!