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幻冬舎の有馬大樹さんは、松がブックウォールを立ち上げる前からのお付き合いです。担当された主な小説に『鹿男あをによし』(万城目学)、『去年の冬、きみと別れ』(中村文則)、『土漠の花』(月村了衛)などがあります。
有馬さんとはじっくり長い時間をかけて作り上げる本も多く、今回の『古生物のしたたかな生き方』はメインのデザイナーを築地としてスタートしてから1年近くかけてできあがりました。
長いお付き合いだからこそのやり取りから、さらに気になることまで、松と築地と制作期間を振り返りながら語っていただきました。
前編ではこの「古生物」がどのように作られていったかのお話です。

現代人の生き方の参考に

 今日はよろしくお願いします。

有馬 何からお話しましょうか?

 どうしてこの「古生物」をブックウォールで作ることになったのかのきっかけや、当初はどういうふうに作ろうとしてたかってところを。

有馬  ある取材で著者の土屋さんに会ったときの話ですかね。専門出版社でない幻冬舎から、古生物の本を出したらおもしろいなって思ってるんですけど、どうでしょう?って土屋さんから言われて。今の生き物本ってどちらかというと、子どもたち向けの雑学?が多くあってそれもおもしろいけれど、もうちょっと体系だった知識、かつそれが進化と絶滅のテーマに踏み込んでいて、ビジネス書っていうんじゃないけど、大人が読んで生き方の参考になるかもしれない。そういうのもなんかおもしろいなって。たとえば、パラスピリファーは「無気力を極めることで繁栄した」とか・・・。ということは「無気力は一つの生存戦略なんですか?」みたいな。古生物ってこんなふうに生きてたんだっていろいろと出してもらいながら、それを30項目に絞り込んで・・・っていう感じですかね。出てきたものが、そのときの僕にとって刺激的な生き方だったんですよ。非常に身勝手ですけど僕が読みたい本を自分で作るみたいな感じだったかもしれない(笑)。

築地 (笑)。でも、そうですね、30項目をいただいたときに、全部有馬さんの声で再生されるなっていうのは印象としてありましたね。気持ちが入っているというか・・・。それでそのときに確かタイトルだけいただきましたよね。

有馬 タイトルっていうか、最初のころ打ち合わせで、なんかこんなタイトルにしたらどうかなって思ってるんですよねって言ったら、2人の反応がよかったから・・・。

築地 そうでしたそうでした!

有馬 あ、これ結構いいんだって。

築地 で、入れてみよう、みたいな感じでしたね。

有馬 よくあるオーソドックスなやり取りって言うと、編集者がまず帯を決める。タイトルを決める。決めた素材をデザイナーに渡す。で、デザイナーが組んでくれるっていうのかなと思うんですけど、ブックウォールさんに依頼するときって比較的そこは曖昧というか。そのとき考えてるものが決定じゃない状態で伝えるじゃないですか。で、それを簡単に作ってもらったりするでしょ? 僕はそのほうがね、やり方として好きなんですよ。

ラフのはたらき

 (笑)。ああ、初めの段階は何を作ろうとしたか覚えてるの?

有馬 初めの段階?初めのラフ?もちろん覚えてますよ。ほんと、このときはまだハッキリとタイトルも帯も決めてない状態だったときで。土屋さんにちょっとプレゼンしたいからって2人にざっくりしたラフを作ってもらって。で、それを見たとき「あ、タイトル違うな」って思ったんですよ。

 何が一番そう思わせた感じ?

有馬 なんかね、奇をてらいすぎているような気がして、タイトルが語ることと絵が語ることが立体的に組み合ってないなと。

 バラバラに見えてしまったと・・・。その違和感というか、何かちょっと違うって感じたときのやり取りっていうのは。

有馬 たぶん言えてないんじゃないかな。というのも、そのときこれに対する自分の違和感が何かっていうのを言語化できてなかったと思う。ラフを見せてもらったことで「このタイトルじゃないな」っていうことが、かなり確信に近いところだったので、まずはタイトル考え直さなきゃなって、そういうふうに思ったというラフだったかもしれない。

 新たに違うものを生み出すための第一ステップのようなラフだったと・・・。

有馬 松さんの場合はそれを許してくれるからっていうのもあるんだけど、「一回これで見せてもらいたいんですけど、いいですかね?」っていうやり取りを何度かしてもらいますよね。そうするとどういう本を作りたいかっていうのが何もないときよりも考えやすくなってくるので、このラフいただいたってことは、形にならないんだけど、僕の中ではすごく大きなステップになる。

 整理する役割も果たしているんですね。

有馬 確かそのとき知的な本を読みたいって、自分にとっての知的っていうのはこういうものなのかもしれないっていう話も2人にしたんじゃなかったでしたっけ。

 ああ、そうでしたね。参考みたいな本もいくつかもらって。

有馬 そしたら松さんがそこで「有馬さんは比較的シンプルにしたいんだね」みたいな感じで。その後、タイトルを出したときに、ラフも持ってまた打ち合わせにきて・・・。そのとき出してくれた築地さんの「散らすアイデア」が、やっと最終的に着地に近づいていくものでしたね。

 その「散らすアイデア」っていうのは何がきっかけで?

築地 最初の方に、書店でよく見かける生き物本とはちょっと変えたいんだってところで、「生き物を散らす」っていうのはいったん省こうってなってたんです。

有馬 うん、確かに。最初のラフを作ってる時点で散らすアイデアははじいてますね。

築地 全体的に変わったことがしたいという方向に行ってしまっていて。いろいろとB級の方向に振ったりもして(笑)。もうこれ作りすぎて見すぎて、だんだんどこが大事なのかよく分からなくなって。そのときに松さんから「もうそういうのはいったん置いて整理して、全然違うものを作ってみたら?」と言われて。じゃあ、そこでそもそも省いてしまっていた散らすアイデアではどうなるんだろうっていう(笑)。制作が始まった頃、有馬さんがああいう生き物本作りたいよね、楽しいよねって仰ってて。ということはあれが有馬さんにとってのスタンダードで、たぶん一般の人たちにとっても慣れ親しんだものだと思うと・・・っていうところからですね。

有馬 なるほどね、一回はじいたアイデアを戻したってことなんだ。

築地 そうですね、そこからは、もう今回の田中さんのイラストも普段のあの生き物本からはちょっと違うものになっているんじゃないかと思いまして、じゃあこの素材そのまま活かして散らしたらハマるんじゃないかってなってやってみたら、ハマった~!と(笑)。

 だとしたら、元に戻ったと。

築地 ほんとに原点に戻ったんだと思います。

有馬 あのー、僕が松さんとよくやる「あーでもない、こーでもない」からの、着地は元に戻ってるみたいな(笑)。

 (笑)。 あー、これはもう大概そうなっていくっていう・・・

有馬 なるほどね、決して原点に帰るために何かやっているわけじゃないけど結果として着地したとこがそこだったと。

築地 そういうことなんです、でもここからは早かったですよ。

有馬 ああ、ここからあとはもう微調整ですよね、女の子入れたりとか、ちょっと色を試してみたりとか、大まかな方向性みたいなところは。

 ここらへんで固まっていったわけですね。

言葉のちから

 タイトルの見せ方はどうやってここに落ち着いたのかなと。自分としては「古生物」はあまり聞きなれない言葉かと思ったんで、そこがネックになる可能性があるんじゃないか、古生物の本だから古生物によりたいっていう立場かもしれないけど、言葉の重要性っていうのを少し聞きたくて。

有馬 読んでみて「なんだこれ古生物の本じゃん」って言われるくらいだったら、最初から素直に古生物の本って言っちゃったほうがいいなと。それが仮に生き物本ってした方が間口が広くならない?って言われても、入り口と中身が違う本をあまり作りたくなかったっていうのがあったのかも。

 そう考えると今回はほんとストレートに作るっていうことだったのかな・・・。

有馬 そうですね、言葉が出てくるまでは大変だったけど、比較的ストレートに作ろうっていうのは途中から思ってたかもしれない。

 そのストレートに見せようとしたときに、カバーの色味のところですが、買いやすさとなったら、白いものとか、生成りっぽいものとか、そういうほうがいいのかなって思ってしまいがちなんだけれども、この銀と赤を選んだきっかけっていうのは? この銀は特色としてくすんでたとしても、ちょっとキラッとしてて、これはデザイン性が少し上がって読者は難しく感じないだろうかと・・・。

有馬 難しいなー、単純に銀おもしろいなっていうか。結構悩んだところですよね。確か築地さんが「生と死を扱ってる本ですね」っていうようなことを言ってたのがあって。

築地 あ、そうですね、もう全員化石になっているっていうところで死をイメージしましたとお話したことがありました。

有馬 そういうところからも残ってたかもしれないですね。

 となると、やっぱり言葉の強さっていうのがあるかもしれないですね。デザイナーはビジュアルで見せるけれど、こっちが言った言葉・・・、ビジュアル以外の要素っていうのも吸収して解釈してくれるんだなって。

有馬 人によるかもしれないですけど、何となく意識せずに残った言葉に引っ張られるっていうのはどうしてもあるかも。

後編へ続く!