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後編では普段の仕事の進め方や、お互い気になっていたことなどお話ししていただきました。
お話の中で、この1年同じゴールを目指しながら走り続けてこられた理由も見えてきます 。

アイデアはどこから?

築地 普段はタイトルとキャッチってどう考えるんですか? たぶん帯キャッチはおそらく内容からとるっていうのは何となく分かるなとは思うんですけど。

有馬 いやー、難しいけどねー、実は表4から考える。小説の場合もあらすじが先かな。何の話なんだろうっていうのを、自分で把握するために最初バーっと書いちゃうんですよ。それを大体200~300字くらいの間に整えて、こういう話だということをずーっと頭の中に入れていくって感じ。

 キャッチを考えるときも表4見直しながら考えるってこと?

有馬 帯キャッチとか何度も見直しますよ。不思議とみんなよく言うんだけど、お風呂入ってるとき思いつくとかいうじゃないですか。あれほんとそうだなって。

 あのリラックスしたときね。

有馬 考えてるときってほんと出て来ないのに、そのこと止めたときにポっと出てくる。今回も結構そうなんですよ。

築地 私は夜寝るときとか思いつきます。

有馬 僕あんまり夜寝るとき出てこないですよ。

築地 えー、そうですか? 寝ようとしているときに、たぶんふっと気が抜けるせいか、ラフのアイデアが思いついたりします。

 そのときもう寝られなくなる・・・。

築地 そうなんです、興奮するんですよ。あ!うまくいくかも!みたいな(笑)。

有馬 本作ってて帯考えるときとか、それこそ小説幻冬もそうだったけど、全体の設計を考える時とかは、めちゃめちゃ歩くんですよ。歩いてるとまとまっていく。数学者とか、何かの数式を証明するときにやることは歩くことだって昔何かのエッセイで読んだことがあって、確かに僕にとっては歩くっていうテンポと考えるっていう行為のマッチングはいいような気がします。

 自分もよく立って考えたりするけど、立ったら足が動いて体が連動して脳が活性化するっていうから、歩くのもたぶんそうなんだろうなって。

編集者の理想の形

築地 もう1つお聞きしていいですか? 原稿読まれたときに、有馬さんの100点と、他の人の100点は違うと思うんですけど・・・感情が約束された話っていうのがあるじゃないですか。

有馬 泣けるとか。

築地 たとえば傷心の人物がいたとして、たぶん最後は前を向いて歩きだすんだろうなっていうのが見えてきて、そういう先が読める小説が来た時にはたぶんそのこのプロット通りにやったら、60点はいけるってなったときに、ベースは残しつつ何か違う要素をいれるっていうのがあったりするんですか?少しひねったものをいれていくとか・・・。

有馬 土台がそこまでしっかりしてれば、その土台は崩せないんじゃないですかね、書く人が違えばどうしたってオリジナリティはあるじゃないですか。だからそのオリジナリティが強ければというのがあるかもしれないです。この登場人物は魅力的だからもうちょっと多く出したほうがよくないですか?とかここでこの人物とこの人物がいきなり仲違いしちゃうと急すぎるから、もうちょっと前段階で埋め込んだ方がいいんじゃないですか?とかそういうのはあります。なかなかゼロイチの仕事を僕らがしてる訳じゃないから難しいは難しいですね。原稿ってやっぱり難しいですよね。

築地 有馬さんは自分がおもしろいと思ったものに対する自信が基本的にブレないですよね。

有馬 少なくとも自分がおもしろいと思ったものの応援団長にはならないと編集者ってやりきれないよなっていう気にはなるかもしれない。他の人がおもしろくないって言ったとしても、いや、俺はおもしろいと思いましたよって。

築地 今回、有馬さんが何をしたら喜ぶかなって考えながら、中面もカバーも作っていったなっていうのはありますね。

有馬 それが編集者の理想の形の1つなのかもしれない(笑)。昔、別の著者さんから有馬が読んだ時にどう思うかな、っていうのはやっぱりちょっと考えるっていうふうに言われたことがあって、それは嬉しかったですよ。

人それぞれの作り方

有馬 逆に他の編集者ってデザイナーとどういう打ち合わせしているかって分からないんですよ。新人のときだったら上司と一緒に行って見られるけど、今はそういうことがそんなになくなっちゃったから。

 本当に様々だけど大きく分けて3つくらいある。1つが最初から一緒に考えて作っていく・・・有馬さんみたいなタイプ。もう1つはが自分のやりたいことはやりたい。

有馬 ストライクがせまいってこと?

 せまいから、ラフを切ってもんでいっても、そこに向かってもらわないと正解にはしませんよっていう・・・

有馬 つまり別の部屋への扉は閉ざされているタイプ。

 そう、意外と閉ざされているのと、あと最後の1つはもう全てデザイナーに任せるっていうタイプかな。

有馬 比率でいうとどのくらいなんですか? 3パターン。

 ここを気に入ってもらうところでいうと、一緒に考えて作っていきましょうっていうタイプの人が比較的多いと思う。

有馬 あ、でもブックウォールさんに頼むってそういうことだと思う。

 それともう1つキーワードとして「何か分からないけど」何か正解を出してくれるはずだって頼まれる人たちが多いかな。

有馬 なるほどね、編集者も本を作る人ではあるんだけれど、たとえばカバー何がいいかって分かんないじゃないですか、正解がないから。そこは率直に相談っていう感じになるんじゃないですかね。

 ひとつ気になっているのが、編集者さんたちみんなが上がってきた絵に対してどうやってジャッジしてるのかなって思って。

有馬 多くの人は上司に見せて上司がいいって言ったらじゃないのかな。

 ああ、じゃあ上司が色々見てきた経験に基づいてってこと?

有馬 うーん、でも僕の場合はバイトの子に見せたりするかな。

 それはなんで?

有馬 言葉にはしないけど、見たときの顔色とか、これだめなんだとか、伝わってないなとか、これいいんだなとか分かりやすかったりするから。

 見慣れてない人に見せたときの顔色のほうが分かりやすいと。

有馬 そうですね、あとは出力したのを持って本屋に行って実際に置いてみて、あ、意外に目立たないなとかそういう感じ。

 目立つ目立たないって?

有馬 タイトルじゃない? 僕はね、やっぱりタイトル重視なんですよ。さっき松さんが言った「言葉の重要性」なのかもしれないけど、タイトルが入って来ないとカバーを認識できないんですよ。

 それはここの作り方と同じようなものかもしれないですね。その人が伝えたいことがデザインで見えていないのは、デザインができてたとしても消化不良だなと思うから、それっていうのはタイトルだと思います。

一緒に考えて作っていける

 編集者さんとして有馬さんがデザイナーに求めることって何ですか?

有馬 はっきりとした答えにならないかもしれないですけど、「こうしてください」て言葉をそのまま返してこないていうのは求めてるかもしれない。仕事をする上で、たとえば著者さんから「これ調べといて」って言われたときに、それだけ調べて渡せば、頼まれたことの答えにはなっているんだけど、ついでにこれも調べておきましたっていう1こってやっぱり大事だなって。そのサービス精神みたいなものだと思いますけど、デザイナーさんに求めるのもそういう1こかもと。今回みたいに築地さんが、全く違うアイデアを乗せてくるっていう感じが好きかもしれない。それに松さんって最初、編集者の考えてる方向を試すための・・・つまり方向性違いのラフを出すじゃないですか。

 ああ、出しますね。

有馬 そこで「この方向でもう一歩、向こう側に行きたいんですよねー」みたいな謎の問いかけをすると、松さん考えてくれるからそう言うのはなんか好きかな。

 この謎の問いかけが、ほんとに難しいんやな(笑)。ずっと考えて、結局こっちかみたいな。

有馬 (笑)。「もう1こ味付けほしいんですよねー」みたいな。

 それで鍛えられたんやな。

有馬 それがあるから、「ラフできました」「これでお願いします」「じゃあ細部調整して入稿します」っていう最短距離のやり取りじゃない、今回まさに築地さんとやり取りしたみたいな、結局戻っとるやないかいみたいなのは割とあるかもしれない。他のデザイナーだとそこはあまりやらない(笑)。

 (笑)。まあ、やり方がいろいろあるけど。

有馬 一緒に考えて作っていける…、ブックウォールさんとやるときは、なんとなく一緒に生地をこねてるような感覚があるかもしれない。たとえば「生地はこっちで作るので、後は焼きお願いします。」ではなくて、この本はその生地こねの時間を同行してくれる人じゃないとやっぱり無理だったですね。

 時間かかったとは思うんだけど。

有馬 めちゃめちゃかかりましたよ。

 お互い始まりの地点で感じたズレから、一緒に答えを見つけてきたけど、これは有馬さんにとってちゃんと答えになってる?

有馬 うん、スタート地点では全く見えてなかったけど、まるでここに向かって走ってきたかのようにしっくりくる。知的な・・・って言ってましたけど、この本は自分の思う知的エンターテインメントに着地しました。いろんな人に渡すと、楽しそうとか、おもしろそうとか、そういう反応を見られるっていうのは望んでいたところ。

 築地はどう?

築地 この期間の中で、有馬さんが大切にしてるっていうものがだんだん分かってきて、それを取り出して取り出して。で、必要のないものをそぎ落としていってこれになったので、本当に大事なものだけ残ったなっていう印象はありました。

有馬 なるほどね、落としていったんだね。僕もこれ結局土屋さんとやり取りして一年くらい経ってるんですよ。その過程の中で、その時々の自分のプラスやマイナスの思考っていうものも生かされていき、一年を経て、ほんと生きるって大変だなって。格闘恐竜なんてさ、噛み合ってるところで化石になってるんだよ(笑)。そういうの見てると、今回の古生物に救われたところもありました。古生物がどんどん好きになる一年でしたね。

 

有馬大樹
1978年東京生まれ。高校時代は甲子園を目指す球児。明治大学在学中より幻冬舎でアルバイトを始め、編集者に。
文芸作品を中心に、様々なジャンルの書籍を編集。担当した主な小説に『鹿男あをによし』(万城目学)、『去年の冬、きみと別れ』(中村文則)、『土漠の花』(月村了衛)、『望郷の道』(北方健三)、『竜の道』(白川道)、『階段途中のビッグ・ノイズ』(越谷オサム)など。小説以外に写真集『脱ぎやがれ!』(大島優子)、エッセイ『神はテーブルクロス』(須藤元気)などがある。2016年、幻冬舎初の月刊文芸誌「小説幻冬」を立ち上げる。