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『夜に駆ける YOASOBI小説集』が9月18日に発売されました。
楽曲や原作小説のファンの人たちを思いながら作られたという今回の本は、いろいろな仕掛けによってその世界観が表現されています。
制作への思いなど、担当デザイナーの上原へ松がインタビューしました。

―今回のように4冊同時に違うものを同じ作品で作ることってそんなにないと思うけど、 この4冊の本を作るにあたって重要視したこととか、気を付けていたことから聞かせてもらえたら。
 
すでにmonogatary.comに読者がついてて、PVっていうビジュアルもあるので、デザイナーの色をめちゃめちゃ出すっていうよりは、これを好きな人がどういうものを好きなのかってことを考えながら作りました。通常版のタイトルについては、イラストの女の子の髪がふわっとなびいている様子に沿うように、動きを付けるために手書きにして、疾走感が出るよう右上がりにしました。
 
―ラフの時、いくつか書体を作ってたと思うけど、この書体の特徴は?
 
アンバランスさですかね・・・。小説の中に出てくる人物たちの心の動きなど考えると、安定感のある書体より揺れ動いているくらいが良いのかなと。
 
 
―このイラストを最初に見たときはどういう感じやった?
 
いい絵だと思いました! ただもともと横長で装幀用に作られたものではなかったので、デザインするのが難しそうだなと(笑)。 いろんなパターン作ったんですが、最終的にイラスト全体を見せる形に落ち着きました。
 
―このピンクの鮮やかさは印刷では出しづらそうだと思ったけど・・・。
 
確かに紙に刷った時、モニターで見るより発色が暗く沈んでしまうので、今回は特色の蛍光ピンクを入れましたね。ちなみに、見た感じは分かりづらいところもありますが、4冊とも蛍光ピンクが入っています。
 
―印刷物になったとき、これに親しんでいる人たちが見て、色が違うって思われないようにと。他に特徴的なのが、やっぱりこのカバーを取ったときの表紙の色味で、カバーとの連動かなとは若干思うんだけれども、この色を選んだのは?
 
これは「マーメイド」という紙の「ネオフラミンゴ」っていうネオンカラーに見える色ですね。本文の扉や見返し、目次など、黒ベタが多くて全体的に重い印象があるんで、カバーを取ったときには、ぱっと光る感じを出したいと思いました。
 
 
―確かにこのカバーを取った瞬間、「おっ!」って明るさがだいぶ際立って、このネオンのイメージともぴったり合ってるとは思ったけど、この黒に関して、見返しはカバーのべったりとした黒とはだいぶ違いが出てる感じかな。
 
通常盤のカバーに使われている古塔つみさんのイラストなんですけど、上の方(空の色)が夜に向かうような茶色っぽい黒になってて、そういう淡い感じのグラデーションが欲しくてこの色を選びました。ちなみに花切れとスピン(しおり)もイラストの女の子のイヤホンのワイヤーに合わせています。
 
―なるほど・・・この古塔さんのイラストをカバーや表紙で全て表現しようと。この4冊はそれぞれタイトルも違うけど、デザインはどう決めていったの?
 
特装版はPVの雰囲気になるべく寄せるようにしました。例えばこのAmazon限定版の「夜に駆ける」では、YOASOBIロゴの下に白いラインが入ってますが、これはPVで「第1章」の部分に白い線が入っているところに合わせましたし、「あの夢をなぞって」のタイトルには作中に登場する花を入れています。「たぶん」はタイトルの枠がPVの歌詞が表示される部分にあたりますね。ファンの人に違和感を与えないよう、馴染んで見えるようにしたくて…。
 
―そういう、みんながアイコン化して見ているところも重要視して、タイトルのまわりにあしらったのは読者としても見慣れているっていう感じで手に取りやすいかもしれないな。イラストを配置したりレイアウトするときはどういうところに気を付けた?
 
「たぶん」はイラストのメインである部分にできるだけ目が行くように、人物近くにタイトルを置きました。「あの夢をなぞって」は見せ場である花火にタイトルがかからないようにとか、「夜に駆ける」も真ん中の二人の顔にノイズが入らないようにとか…。
 
―できるだけイラストを重視して、タイトルが被らないようにするとか、イラストを大きく活かせるようにっていうところかな。通常イラストレーターさんと仕事をするときにはどういうことを注意しながらやり取りしてる?
 
今回イラストレーターさんとのやり取りはほぼなかったんですが、編集者さんとイラストレーターさんとデザイナーで話し合うときはその場でイメージをちゃんと共有するようにします。どうしても、ラフが出るまで考えていることがみんな同じかどうかは分からないですが、できるだけすり合わせるようにしていきます。
 
 
―PVっていうものが存在していたから、今回はイラストレーターさんとのやり取りはなかったっていうことかもしれないけど、最終的に静止画で本としてデザインされるから、映像を見ている人たちのイメージと少し違ってくるところもあるのかなと。大きき、色味も含めて、装幀ならではかもしれないし、それに関してデザイン上で何か配慮したことっていうのはある?
 
今回は楽曲がある小説ということで、動きや時間の経過をデザインに入れることが重要かと思い、もしこの本が動画だったとしたら・・・と想像しながら作りしました。意識したのは「終了していない状態」・・・例えば「あの夢をなぞって」だったら、普通のデザインだと、タイトルの横の花の線を「て」の位置まで伸ばすかなっていうのがあるんですが、手前で止めることで、これから下に向かうような動きが出るかなと。Amazon版「夜に駆ける」のYOASOBIロゴの下のラインの長さが中途半端なのも、最初はあって消えていく様子とか、蝶が「駆」の字に被っているのも、そこに留まらず飛んで行きそうな様子を現しています。「たぶん」はタイトル部分がぶれることによって動きを出してます。
 
―なるほど、本っていう静止画で止まってしまうものをデザインするときに、時間の流れや動きまでちゃんとそこに閉じ込めようとした、そういう作り方もあるんだなと少し感心を・・・しました(笑)。最後の質問になるけど、この本を作ってみてどうやった?
 
通常だと、本が出てからファンがつくというのが多いと思いますが・・・。人気作家さんの場合は別かもしれませんが、それでも毎回新しいビジュアルを考えて提供しています。今回はもうすでにビジュアルがあり、ファンがいるところに、さらにもう一度デザインしなきゃいけないので、気をつけないとその世界観を壊しちゃうんじゃないかなと思って。そこが一番意識したところです。
 
―そこらへんはファンとの距離の詰め方っていうか、そういうのがある分、少し難しくはなるかな。
 
なので、この作業中はずっとYOASOBI聞いてました(笑)。
 
 
―これを手に取ってもらうのはmonogatary.comの読者や、YOASOBIのファンが大きいだろうから、その世界観を壊してしまうという怖さはあるけれど、いろいろファンのことを考えながら作られたものだから、それを受け入れてもらえたら楽しいかなって。まだ出てないけど、ファンの喜んだ顔が浮かんだり、どう思って手に取ってくれるんだろうって想像したりする?
 
そうですね、こういう細かいことに気づく人はいるかな? とか・・・。
 
―ちなみに気づいてもらったら一番嬉しいところは? 本文でもいいけれど、紙選びとか。
 
言わなきゃ気が付かないかもっていうところだと、この扉の「白夜」という紙は表と裏の質感が違う、二面性のある紙なんですけど、収録作品を読んだ人は何か感じてくれるかなと。前半と後半とか、2人の視点の違いとか、過去と未来とか・・・その他諸々と。カバー取ったときの表紙の鮮やかさも、作品を読んだ人が「あ!」ってなる瞬間を表現しています。また細かいところなんですけど、通常版カバーの手書き文字、「夜に駆ける」の「夜」の鍋の部分がよく見ると途切れていて、表題作の楽曲の歌詞「がむしゃらに差し伸べた僕の手を振り払う君」っていうのをイメージして、ここに・・・。
 
―なるほど、ファンもそうだけど、作者さんやYOASOBIの人たちにも喜んでもらえるような仕掛けがこの中に実はいっぱい盛り込まれていて、いろいろと探してみるのもおもしろいかもしれないね。
 
 

「YOASOBI」BOOK(双葉社)
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