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『道然寺さんの双子探偵』の装画を手掛けられたイラストレーターのsyo5さんにお話を伺いました。
今回、ロサンゼルスで開催された「アニメ・エキスポ」にて、卒業制作のアニメーション「微睡みのヴェヴァラ」が上映されるなど、活動の場を広げられています。
前編では商業の道に入ることになったきっかけから、仕事に対する考え方、進め方など語っていただきました。

仕事に結びついていくまで

―syo5さんには『道然寺さんの双子探偵』で初めてお仕事をご依頼しました。その頃は、『君の膵臓をたべたい』のloundrawさんが勢いよく装画を手掛けていた時期で、loundrawさんの次の人はいないか?と探していたときにsyo5さんにあたりました。当時、まだ本格的に仕事はやっておらず、学生さんだということに驚きました。学生時代から商業の道に入っていたことになりますが、初めから商業を目指していたんでしょうか?

そうですね、ゆくゆくはやりたいと思っていて、今のようなイラストを描き始めたのが大学へ入学して機材(PC・液晶タブレットなど)を揃えてからです。どこかの会社へ勤めるよりは、せっかくの大学4年間なので、いろいろ試してみて、結果がどう出てくるかで今後の身の振り方を決めていこうと、大学1年のときはひたすら個人製作をしていました。当時はもう SNS も普及していて、イラストを載せれば反応があった世の中だったので、自分もその波にのってアピールをしていこうかなと思っていました。「道然寺さん」はそれから1年経った頃、大学2年生になる前の春(3月)にお話をいただきました。そのときは書籍メインでやりたいということは正直なかったのですが、仕事としてやりたいことの1つだったので、お話をいただいたときはほんとにビックリしました、いきなりメールが来るんだと(笑)。いつでも仕事はきて欲しいと思っていたんですけど、具体的にどこかの出版社にアプローチすることはありませんでしたので…。

―初めて手掛けた装画は何でしょうか?

装画は「道然寺さん」です。

―おっと!bookwallで手掛けたものですね!ありがとうございます(笑)。初めて「道然寺さん」をやってみていかがでしたか?

仕事の話が来てようやく自分のやってきてたことが認められた!…というわけでもないですが、一定の好成果を得られたのかなと、そのときは嬉しかったです。

―機材やソフトは何を使っていますか?

機材は現在はMac Proと液晶13インチです。今は卒業制作を作る際に新調しようと、iMacのカスタマイズしたものを…。ソフトはAdobe photoshopですね。

―日頃の学生生活での作品作りと、商業での作品作りでは、時間はどのようにすみ分けしていますか?

卒業制作の頃は基本的に新規の仕事は断っていました。大学2、3年のころはまだまだ仕事が来ているわけでなかったので、個人作品も描きつつ作業できていたかなと思います。商業の作品に関しては特に時間制限を自分の中で決めていますね。

―時間制限を決めている理由は何でしょうか?

自分の中でグダってしまわないように…。個人製作のときはボツになっても自分のものなので良いじゃないですか。商業のときは締め切りが絶対的にある中で、クオリティもある程度の合格ラインに達しなきゃいけないので、時間を決めて、その時間の中でラフや発想を決めて、打ち合わせ、修正する時間も含めて、後どのくらい完成に向けて時間をかけられるかを計算してやってかないと、やっぱり上手くいかないなと思っています。いい意味で自分を焦らせないと、見せたいところがブレてしまったり、絵的につまらなくなってしまったりすることがあるので、商業のときは時間を決めて自分を軽く追い込むような感じにしています。

商業としてのイラスト制作

―2016年の活動から今において絵に変化はありますか?

変化というより根幹で変わってないのは絵に物語性を含ませていることです。個人の作品は基本的に横長で描いているんですが、書籍などの縦長の場合でも、いろんな要素、その前後が想像できるような作りにしたいと思っています。

―基本的に横長をイメージして描いているんですね、装画での縦長は描きづらく感じますか?

そうですね、「道然寺さん」のときは最初の頃はコツが掴めなかったですね。さっき時間配分を決めるという話がありましたが、分からないことや言われて初めて気づくことが多くて難しかったです。要素を下の方にすると帯で隠れるとか、ロゴやタイトルのスペースを空けることとか・・・あの頃が一番、試行錯誤しながらの時期でしたね。今は抑えなきゃいけないところが分かるので、割とスムーズにいけるかなと。

―これから装画をやりたいと思っている人へ、どこに注意すればよいのかアドバイスをいただければ。

例えば、作家さんが手掛けたイラストでも、ロゴ付きとロゴが入ってないものがよく載せられているじゃないですか。それを見比べてどういうところを意図的に空けたり詰めたりしているかを分析ができたらいいのかなと。基本的に僕は感覚的に作るところも多いですが、理論的に作りたいと思っているので、帯に隠れないように、だいたいどのくらい空ければ要素が映えてくるのかは最低限抑えていかないと、後々大きな修正に見舞われたりすることもあるので、そういうトラブルを起こさないためにも、抑えなきゃいけないポイントを覚えておくと仕事がやりやすいと思いますね。

―イラストレーターさんの中には初めて仕事を依頼したときに、修正がこんなにあるのかと驚かれることが多くて…。「こう描いてください」と言われて、描いた自分の絵はもうこれでいいんだと思うことはないですか?

基本的にはまず納得します。だいたいのもの8~9割の修正は納得できるものなのですが、たまに、これをやってしまうと絵的につまらなくなってしまうな、デザイン作業もちょっと違う方向になってしまうかもしれないなと思ったときは自分の意見を推すことがあります。

―今後のこと、デザインのこと、修正のことを並行して考えた結果、この方がいいんじゃないかと…。

そうです、自分の中でその前後を見て納得できれば対応しますし、納得できなければ、こうしたほうがいいんじゃないかと提案する場合があります。提案するときは分かりやすく説明することを心がけています。

―お互い納得できないところは説明、提案を繰り返しながら作っていくんですね。syo5さんのイラストへのこだわりや、ご自分の得意とすることは何だと思いますか?

世界観のある絵を描きたいのがすごくあって、キャラクターを描く人、背景を描く人というように、わりと分業になりがちだと思うんですが、僕は全部描きたいです。いろいろアイデアが出てきたときに描けないのはすごく悔しいですね。

―他の人の作品を見て悔しさを感じることはありましたか?

参考になるのは結構ありますね。でも「ああ、こういう描き方しているんだな」程度に思っておかないと、自分の作品の良さとか、自分の積み上げてきた描き方が壊れたりするので、そこの塩梅は注意しています。プロとしてやっていきたいと思っているので、人の作品に影響され過ぎてはダメだなと思います。

―流行りが影響する分野でもありますしね。

影響されることが悪いとは思わないのですが、「自分だったらどうする?」とか、そこにプラス自分のこだわりを表現していかないと、その人のレプリカでとどまってしまうと思いますので…。

―学生のときは「自分だったら」を持ち続けることは勉強していく過程の中で大切かと思いますが、商業になれば、あまり自分を持ちすぎると「それは違う」と言われることも多いかと思います。それに対しては自分の中でどう解決していきますか?

そうですね、小説の装画だと自分が挑戦してみたい構図、面白いと思った構図は却下されること多いですね(笑)。小説の絵として映えるものは割とオーソドックスというか、パターン化されているのかなと、それになぞらえるのはいいと思うのですが、そればかりだとモチベーションとしてもよくないですし、今後数年経ったときにそれしかできなくなっちゃうと思うと怖くて、ラフはいつも2、3案作って、その後に基礎のところを外さない範囲で冒険をしたりすることがありますね。

―私たちと似てますね、基本的なところは抑えて、本当はこれをやりたいというものも入れておくと…。

大前提としてクライアントさんの要望に応えるのは必須だと思うんですけれども、応えることに終始してしまうと今後のクリエイターとしての幅だったり表現の幅が狭まってきてしまう気がするんです。クリエイターとしては、応える中でちょっと遊びも入れて、クライアントさんが喜んでくれたら、そこに向けて全力でできるかなと・・・。

―そういう考え方を、学生の時から仕事しながら積み上げてきたおかげで、今後はもっと楽しくなりそうですね。個人の作品と商業の作品を作る上での大きな違いはどういうところでしょうか?

商業では100%自分の望むようにはならないと思うんですけど、基本的に色とかパッと見た時の印象は自分の中で大事にしていますね。特に装画は遠目で見たときに「ああ、いいな」とまず思わせないといけないと思いますし、それは個人の絵でも同じで、自分の中でパッと見てきれいだなと思わないといい絵ではないなと思います。最後の仕上げでは色を含めた光の表現とか、パッと見てきれいだなと思わせることに終始しているかなと思いますね。

―プロとして活動してよかったことは何でしょうか?

単純に装画を担当した書籍が書店に並ぶのは嬉しいです。

―「道然寺さん」のときに書店に行きましたか?

行きましたよ(笑)。単純に嬉しかったです。締め切りという時間が限られている中で、完成度は納得したけれども、後から見たときにもっとこうすることもできたなとか、いろいろ思うことがありますけど、実際書店に並んでいるのを見たとき、そういう思いは一回消えますね(笑)。

―そこからまた新たな挑戦が始まり、その積み重ねでどんどん良くなっていくんでしょうね…。仕事をしてみて気になる点はありますか?

想像と違ったのは、思ったよりゆるいなと(笑)。やりとりがもっと厳密かなと思ってたんですが、意外とざっくりていると感じました。もっと細かい規定があるのかと思っていました。ゆるいからこそ、自分から積極的に分からないことは相談したり、提案するスキルは必須なんだなと思いました。

―自分から提案しないと進まないと。

自分の提案する内容は自分の中で納得できているものですし、やりたいことでもあるので、それを如何に相手にとってどんな利益があるのか、相手の考えにちゃんと沿っていますよと提案していくスキルも大事ですね。仕事において片方が得して片方が損するのはよくないですから…。両者が納得できると両者にとって仕事の流れもよくなっていくと思いますので。

後編へ続く!