特集記事

FEATURE

後編では、ブックデザイナーとして必要なものや、今後のbookwallが目指す道についてお聞きします。

-前回のお話では、文芸書やビジネス書など、様々な本のデザイン依頼に対応できる体制が整っていく話をお伺いしました。個人の事務所からbookwallという会社を立ち上げたのにはどのような思いがあったのでしょう。
 

bookwallを立ち上げたのには実はもう1つの理由があります。それは、装丁の世界で若い人が活躍できる場を作りたかったという考えです。この世界に入ったころは、年配の方ばかりで若い人たちが入る隙間がなかったような気がします。「若造に何が出来る」みたいな雰囲気を多少感じていました。でも、本の読者も移り変わっていくなかで、作り手も時代に合わせて変わっていかなきゃならない。それなら若い人もどんどん入っていくべきだろうと…。現在事務所には20代が多いのですが、話をしていて自分も勉強しないといけないなと感じることがたくさんあります。若い人は積極的に仕事をしないと言われがちですが、やる人はやるし、やらない人はやらないんだと思います。それはいつの時代も変わらないのではと…。

 
-積み重ねてきた知識や経験をすぐに共有するのは難しいですよね。極端な話、クオリティが下がったりすることは怖くなかったですか。

たしかに、デザインのクオリティはもちろん、コミュニケーションのクオリティも含めて一時的には下がるだろうなとは思っていました。いきなり、私と全く同じようにやってくれというのは無理な話ですからね。ただ、そういったクオリティについては時間をかければ取り戻せると思っていたんです。経験を積んでいけば、必然的にデザイン力もついてくるわけですから。

デザイン力がつくというのは、私と同じようなことが出来るという意味ではなくて、それぞれが独自の価値観を持つなかでスキルを高めていくという意味です。自分のコピーが欲しいわけではなくて、スタッフそれぞれが独立した一人のデザイナーとして経験値を積み重ねていけば、個人としても会社としても間違いなくクオリティは上がっていきます。今はそれが一定の水準に達してきていて、これからさらに上がっていく状況なんだと考えています。

-スタッフの方へは、どのように個々のスキルを高めるよう伝えているのでしょうか。素人目に見ると、デザインはロジックやルールで説明できるものではないように見えて、教えることが難しいように思うのですが。

どうなんでしょう、デザインも、ある程度はロジックで説明できるものだと思っています。曖昧な「雰囲気」というものも、実際のデザインで自分が何をやっているのか振り返れば、それは規則的になっていることが多いので…。そういう意味では、どんなデザインでも情報を整理し体系化することは重要だと思っています。

また自分のアイデアの中になかったデザインをする場合は、たいてい編集者の方とお話をしているときに、自分の内にある引き出しが突然開いてアイデアとしてカタチになっていくことが多いです。それは、自分が持っている固定のイメージを相手と話すことで、一度溶かされる感じに似ているかもしれません。氷だと思っていたものが、水だったというような…。ニュートラルに戻すという事と同じなのかもしれませんね。その後の考えで、雪やかき氷や、お湯やお茶や海など、水にもどしてもらったことで自由度が広がるような変化を得るんです。だからこそ、話し合いの重要性を常に感じます。

-デザイナーの固定概念から外れたものに出会える瞬間、ということでしょうか。
 

そうかも知れません。営業の方、編集者の方、皆さんそれぞれ自分の中で基準をある程度持っていますよね。書店に並んで埋もれないだろうか?読者が読みやすい文字サイズだろうか?などと。どうしてもデザイナーはビジュアル的なバランスを重視してしまいがちです。だからこそコミュニケーションのなかから、相手の考えやポイントを拾っていかなければならない気がします。その時に自分がどうデザインしたいのかを再度見直すことも必要なことです。場合によっては、それにとらわれすぎないことも重要ですし…。

 
-コミュニケーションによって、自分の外にあるアイデアを受け入れ、それを自分のものにしていくという作業ですね。それはそのまま、松さんがbookwallのデザイナーの方々に求めていることでもあるんでしょうか。
 

そうですね。それに加えて、いかにアンテナを張りめぐらせながら世の中の情報をキャッチできるかも大事になってきます。どんなものが、どういった人たちの間で、なぜ話題になっているのかを常に把握しておかなければいけません。ただ、今の世の中は情報量が多すぎるのも確かです。どうしてもすべての情報にアクセスすることはできませんよね。でも、本当に触れておくべき情報というのは実はそこまで多くないと思っています。例えば100の情報があっても、選び取るべき情報は1しかなかったりする。少なくとも、今はそういう時代だと思っています。

 
-つまり、その1を探し当てるテクニックが必要ということですか?
 

テクニックというよりは、経験じゃないでしょうか。1を選び取るといっても、最初からピンポイントで情報を見抜くことはできません。多くの情報に触れて、選択していく中で、その選択の精度を上げていくようなイメージでしょうか。正解にみえるようなものに、すぐ飛びつくのではなくて、自分の中のフィルターをしっかりと通して、必要な情報を選び取っていく。それを繰り返していくことで、濃度や精度を上げていくことが必要だと思います。そうすると、「なんとなく良さそうだな」とあたりをつけ、正解に結び付けられる力がいつの間にかついてきている状況になってくるんだと思います。また、「なんとなく」も必要なのですが、それは、あくまで精度が高くないといけません。「なんとなく」=「どれでもいい」わけではないので…。

 
-先ほどの「コミュニケーションから表現の引き出しを増やす作業」と、今おっしゃったような「情報収集からアイデアの引き出しを増やす作業」。その2つを並行して、最終的にデザインのクオリティを上げていくということですね。
 

そうですね。それらを通してデザイナーとしての技術を上げていって、最終的には「代表作」と呼ばれるような作品を増やしていきたいと思います。
一人ひとりのデザイナーがヒット作を持つことで、編集者の方からも「またあの人にお願いしてみようかな」となる場合が多いんです。逆にいえば、それがないと続いていかない仕事なんです。怖いですね。18年間その怖さと戦っていますよ(笑)。

もちろん、イメージが固定化されすぎることは良くないかも知れませんが、それでもまずは自分の代表作、ヒット作を持たなければ何も始まりません。それが増えていけば、クオリティも自然に上がっていくものだと思っています。

今後のbookwallに注目してもらえれば嬉しいです。

前編はこちら

代表 松 昭教
株式会社ブックウォール代表取締役。京都精華大学ビジュアルコミュニケーション学科卒業。松井桂三主宰のデザイン事務所などを経て、独立。
2009年株式会社ブックウォールを設立。多くの人々に本を読んでもらえるような、楽しい装丁を手がけていきたいです。ちなみに鹿が好き。