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後編はふすいさんの仕事に対する姿勢や、今後の目標などに迫っていきます。

打ち合わせのやり方

 
松 ふすいさんのここまでの工程をみていると、そこまでやらなくてもいいんじゃないか、と言う人もいるかと思うんですが、ふすいさんはプロとアマの違いはどのように考えていますか?
 
ふすい 違いはイラストだけじゃないと思うんです。例えば打ち合わせのやり方も、僕は常に変えています。初めは編集者さんやデザイナーさんの意見を聞いているだけだったのですが、以前ラフを出した際に方向性が食い違う事がありまして、それを改善するために打ち合わせ時に最初のイメージラフを持っていくことにしたんです。そこでお互いのイメージを擦り合わせるようにしていたのですが、それもだんだん難しくなってきて…そこで次はiPad Proを打ち合わせに持って行き、その場で直接ラフを描いてみせることにしました。いろいろな意見をもらってイメージを共有しながら方向性を決めることができますので、だいぶ時間の短縮が可能になりましたね。
 
松 ラフがなかなか決まらなかったらどう解決するようにしていますか?その場でそう決まっても、持ち帰って見ると何か違うな、とか感じることありませんか?
 
ふすい 通常、色込みでラフ案を提出するのですが、イメージが曖昧な場合は線だけのラフを起こし、1色だけで描いてみたものを数パターン作ります。その後編集者さん、デザイナーさんの意見を聞いてまた描きながら考えたり…ですかね。色が微妙だと感じると、思い切って色を逆転してみたり、最初に提案した色は残しつつ、別の色を加えて違うものも出したりしています。案外そっちが通ったりするんです。答えをひとつだと決めつけない事が大事ですね。イラストレーターとしてお仕事をするようになってからまだ3年しか経っていないんですが、初めの頃はイメージに浮かんだものだけを描いて提出していました。ですが書籍の装画のお仕事をいただく事が増えてから、考え方が変わっていきましたね。果たしてこれで正解なのか?と。そこでいろいろな書店に行ってどういうイラストに目が行くか客観視したんです。目に留まったものや今だとこういうのがいいんだろうなと感じるものをチェックしておいて、後日もう一度書店に行ってみると、実際売れてたりするんですよね。で、本が完成したらいつも自分一人で反省会をしています。完成したものを改めて見ると、ここをもっとこうすれば、とか毎回やってますね。 
 
松 常に自分をアップデートして先に進んで行こうという姿勢が感じられますね。辛いな、と思う時はなかったんですか?
 
ふすい もちろんありますが、それは自分の実力不足だと思っています。どうしても描けずに煮詰まってしまった時は、その仕事自体少し休んでみるんです。散歩をしたりしていますね。その後また取り掛かるんです。自分自身には常に満足していないです。満足してしまったら上達しない気がするので。常に満足いかないからこそ、もっと上を目指せるというか。
 
松 自分で自分自身にアドバイスして新しいものを見つけている感じがしますね。仕事って、自分が悪くないのに進まなくなることってあると思うんですが、ふすいさんは進まなくなったら自分から違う方法を探して、自分でその土壌を作っているんだなと感じます。私たちも見習わないと。
 
 
松 ふすいさんがこれから何に向かって行くのか気になりますね。今、描きたいものと望んでいるものってどのくらい距離があるんですか?
 
ふすい 住野よるさんの作品で表紙を描きたいというのが第一の目標だったので…。次の目標はそうですね、画集を出したいな、なんて思ってます。今年に入って、今の時点ですでに去年の作品数を超えたので。
 
築地 今の時点って、まだ3月ですよね?(※インタビュー時)
 
ふすい 今年に入ってから突然仕事が増えたんですよ。今は20個くらい抱えていますね。3月だけでも12個とか、そんなペースです。
 
松 このままのペースだと体に支障を来すのでは…。

ふすい 倒れてしまいますね(笑)。実際、1月、2月は本当に寝る暇がなかったので、もう少しゆっくり進めていきたいなとは思っています。でも今回の作品もそうですが、今年に入ってから忍耐力はだいぶついたと思います(笑)。 

 
松 『青くて痛くて脆い』の影響もあるでしょうし、今後もっともっと依頼が増えそうですが…。
 
ふすい 依頼が来るのは喜ばしい事なのですが、『青くて痛くて脆い』のクオリティを求められそうですよね。当然だとは思うんですがここまでのクオリティを出すとなると最低3ヶ月はかけないと無理ですね。
 

イラストレーターになるまで

 
松 初心者の人に向けた練習法として、何が一番重要ですか?
 
ふすい あくまで僕のやり方なんですが、とにかくよく観察しますね。空を見ては雲はどういう形をしているのだろう、アスファルトを見ては光がどう反射しているのか、ガラスにはどう映りこむのか、とか。喫茶店に行った時はお洒落なカップを描いてみたり、店内の様子を描いてみたり。僕はもともとキャラクターメインで、背景は全く描いていなかったんです。専門学校を卒業してからブログ(現在は閉鎖している)にイラストを投稿していて、ブログ友達に「pixivには投稿しないんですか?」と言われて、その時pixivの存在を初めて知ったんです。見てみるととんでもなく上手い人達がたくさん投稿していて、そこで初めて挫折を味わいましたね。とりあえず自分もイラストの投稿を始めたんですが、全然見向きもされませんでした。そこで、仕方ない、じゃあ背景を描いてみようか、と。2010年くらいに本格的に背景を描く練習を始めて、その後4年間は1ヶ月に1枚くらいのペースで描いていましたね。当時僕はサラリーマンとして働いていたので、仕事を終えて帰宅してから描いていました。アニメ作品の背景に注目してみたり、好きな絵描きさんの絵を真似たりして、そこからだんだんと崩して自分のいまのタッチに落ち着きましたね。
 
築地 当時サラリーマンということは、初めからイラストレーターとしてお仕事をするつもりはなかったんですか?
 
ふすい そうですね。イラストレーターにはなれないと思っていたんです。趣味の範囲で止めていたのですが、pixivに投稿したりイベントに参加するようになった頃に、初めて依頼を頂きました。その依頼を受けて、出来上がったものを見たクライアントさんがとても喜んでくださり、それがとても嬉しくて…思い切って2014年の9月ごろに会社を辞めて、イラストレーターとしてフリーで活動することにしました。
 
松 イラストレーターとして食べていく事がとても大変であると分かった上で挑戦したわけですね。不安はありませんでしたか?
 
ふすい もちろんありました。特に収入に関しては…。それでも、殻を破ってみようと思ったんです。当時は毎日がつまらなくて、刺激が欲しかったんですよね。
 
松 今の状況だと依頼が多くて大変なように感じますが…。
 
ふすい 大変ですね。満足いかなかった作品とかもありますし…。自分なりに頑張ったけどもっと上にいけるんじゃないかとか。そういう思いを次はもっと良いものを作ろう!という気持ちに変えてますね。
 
松 ふすいさん自身の強みはなんだと思いますか?
 
ふすい 修正の要求に常に応えている事でしょうか…。以前一度、フィックスしたお仕事を突然「作家さんがイメージと違うと言っているから描き直してくれ」ということが、2、3回あったんです。校了が迫っている中の厳しい状況だったのですが、もちろん対応しました。逆に申し訳なく感じるんです、作家さんに対して。そういうところが強みでしょうか。修正って、そこだけ修正すれば良いということではなくて、そこをいじると全体のバランスが崩れてしまうから、とあらゆる面から考えて修正をしなければいけないので、結構苦労したり、時間も手間もかかるんですが、それを終えて作家さんとかが喜んでくれると、やっぱりやってよかったなと思うんです。
 
松 よく「ちょちょいと修正して」と言われるけれど、実際その「ちょちょいと」の部分をすごく考えるんですよね。いまの活躍しているイラストレーターさんとそうでない人の差はそこだと思います。修正があるのが当たり前だと思っていない人とか…。要求されている修正をうまいこと咀嚼して、全体を崩すことなく修正できる人ってやっぱりすごいと思います。
 
ふすい これは悪い癖なのかもしれませんが、納期よりもクオリティを重視してしまうんです。時間がないのもわかるんですが、本って一生出回るものじゃないですか。クオリティを落とすというか、妥協を許したくないんです。だから、休みがなくても良いから、クオリティの高いものを提供したいっていう気持ちですね。
 
 
 
松 ふすいさんにとって、仕事っていうものは仕事を超えた何かがあるような感じがしますね。仕事以外にやりたいこともあるでしょうし、そういう風に常に修正に応えていると時間もどんどん削られるじゃないですか。嫌になったりももちろんするでしょうし。それでもどうしてやっていこうと思えるんでしょうか?
 
ふすい 今は書籍の装画のお仕事をメインでやっているのですが、小説の装画って、作家さんの表現でもありイラストレーターの表現でもあると思うんですね。作家さんのイメージしている装画を自分が具現化して行って、かつ自分の持っている表現を合わせると、そんなに苦痛ではないんです。仕事なんですけど…。なんというか、趣味絵だと自分の好きなものを自由に描けると思うんですが、仕事って普段自分が描かないようなものにもチャレンジできる、ある意味挑戦だと思うんですね。乗り越えられないものもあって、そう言った苦痛はあるんですがそれを乗り越えたときの達成感が個人制作よりも楽しくなってきて。逆に仕事が来ないとすごく不安になるんですよ(笑)。趣味絵どころじゃないですね。返事待ちの間の、メールを待っている時間でさえもそわそわしますね。
 
松 ふすいさんとやりとりをしていると、見ている人に楽しんで欲しいという思いを作品を通して感じるんですよね。住野よるさんの作品の表紙を手掛けたいという目標、『青くて痛くて脆い』まできたわけですが、2010年から8年間、紆余曲折あったと思いますが、出来あがった本を手にした時はどうでしたか?
 
ふすい あ、出来たんだな…と(笑)。
 
松 ふすいさんを応援していたこともあったので、本当に今回はよくやってもらったと思います。ふすいさんの一番良いところはやはり、一緒にお仕事をしていて楽しめるところなんですよね。実験的に色々とやってくれますし、乗り越えてきてくれる、きちんとしたやりとりやコミュニケーションをとれるイラストレーターさんって決して多くはないんです。その中でふすいさんは今後もっともっとご活躍されて、きっと書店でふすいさんの絵を見かけることが増えるんでしょうね。
 
松 そのうち忙しすぎて打ち合わせにこられなかったりとか…。
 
ふすい あ、それはないですね。僕打ち合わせに直接行くというのは絶対に崩したくないんです。どれだけ忙しくて時間がなかったとしても、打ち合わせには必ず参加して直接やりとりをする事がとても大事だと思っているので、崩したくないなと思っています。
 

イラストレーターを目指す人へのメッセージ

 
松 ふすいさんのイラストを見て、こういうのが描きたいなと思っている若手の方達へ何かメッセージを送るとしたら、どんなメッセージになりますか?
 
ふすい 相当な覚悟がないと無理ですよ、と。ここまでじゃなくても、背景をより緻密に描けば多分書店でも映えると思うんですが、もし背景メインで装画をやりたいのであれば、ただ単純に描くのではなく背景にも表情や感情が伝わるものだったら見映えのするものが描けると思います。自分がこの背景だったらどういう感情で出したいかと、そこまで考えられれば良いのではないでしょうか。売れることはもちろん大事ですが、編集者さんやデザイナーさんの予想を常にどれだけ超えていけるか、なのだと思います。
 

ふすい(Fusui)
フリーランスのイラストレーター。協同組合 日本イラストレーション協会 JiLLA 組合員。細部まで描き込まれた背景、光や透明感、空気感等、独特なタッチを特徴としている。人物だけでなく、風景にも表情が伝わるよう心理描写を入れ、叙情的な作風が魅力。現在までに、住野よる『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)、櫻井千姫『70年分の夏を君に捧ぐ』(スターツ出版)、仲町六絵『京都西陣なごみ植物店』シリーズ(PHP研究所)、友井羊『スイーツレシピで謎解きを』(集英社)など、数多くの小説作品の装画、挿絵を担当している。装画のみならず、天月×96猫「打上花火(歌ってみた/cover)」(ドワンゴ)のMVイラスト、三月のパンタシア「風の声を聴きながら」(SONYMUSIC)のCDジャケットなど、音楽関連のイラストも手掛けている。上記以外にも、児童書、教育事業関連、広告など、ジャンルを問わず、幅広く活動している。
HP:FUSUIGRAPHICS
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ギャラリーインタビュー記事:Pickupイラストレーター#002ふすい