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『マイストーリー 私の物語』の制作において実際の打ち合わせを少しご紹介します。
前編では装画を手がけられたイラストレーターの高杉千明さんのイラストレーターになるまでのお話から、具体的な絵の描き方まで、朝日新聞出版 山田京子さんと松がお話を伺いました。

『イラストレーション』誌上コンペ「ザ・チョイス」大賞

 

山田 松さんは高杉さんとお会いするのは今日初めてですか?
 
松 会ったのは初めてではないんです。この前、高杉さんが『イラストレーション』誌上コンペ「ザ・チョイス」の大賞を取られたときに審査員をしていました。一緒にお仕事をするのは初めてです。高杉さん、おめでとうございます。受賞後は仕事が次々に?
 
高杉 ありがとうございます。仕事はぼちぼち来ていますが受賞後は初めてです。
 
山田 今回、何人か候補を上げさせていただいた中で、著者の林真理子さんが高杉さんのイラストがいいという事で。
 
 注目度も高いし、受賞第一作目ということでご自身の宣伝にもなりますね。
 
 
山田 この二つは『マイストーリー』に使えるくらい、どちらもカバーになりそうです。人を出さないでモチーフにするとか、後ろ姿だったりとか、そういう感じもいいかなと思っています。もう受賞のことは『イラストレーション』の本にはなったんですか?
 
高杉 受賞式はまだですが、結果は載っています。
 
松 審査時は高杉さんには多くのコメントを出したわけではなかったんですよ。私は、「仕事はまだできないけど、やればできそう…」という基準で選んでいたので。高杉さんの場合はその時点で、もう仕事はできるしクオリティも高いので、なぜ今更選ぶんだろうっていうのが一つあって。いい意味でですよ。だからもう、できているというところで評価すると、高杉さんの絵は必ず票がとれるんです。大賞取ったのは、当然ということで異論はないですね。
 
高杉 私自身コンペに出し始めたのが2015年からで、何回かしか出してないんです。チョイスも初めてでした。
 
松 それで大賞取ったんですか!?
 
高杉 このタッチにしたのが2016年の8月頃で、2017年の1月にこのタッチで個展をやったんです。
 
松 この構図も、今までやってきたことがない感じではなくて、ずっとやって来たように見えます。
 

イラストレーターになるまで

 

高杉 最初からイラストレーターになりたいって思って、頑張ってきたのではなく、なりゆきでやって来たという感じで。
 
松 なりゆきで! なりゆきで大賞とるんですよ、この数年間で。
 
高杉 装画の仕事はしたかったので、勉強はしましたけど、別に装画に使われるために書いているっていうよりは自分自身の好みだったりします。最初はイラストレーターになったのも、旅行が好きで一人で海外に行ってそれを漫画にして。
 
松 え?!漫画にしてるんですか?!
 
高杉 旅行記のようなものを書いて、それをよく利用していた旅行会社に会社の壁に貼ってもらっていたら、そこでフリーペーパーを作ってる会社の編集者さんに声をかけて頂いて書き始めました。そうこうしているうちに遺跡の発掘現場で図面を書くバイトしてたんですけど。
 
松 なんか、いいですね、いろいろ出てきますね(笑)
 
高杉 ネタはいっぱいあるんですけど(笑) そしたら、そこでパソコンもらったんですよ。
 
松 遺跡の発掘現場のバイトしててパソコンを!?(笑)
 
高杉 職員さんがノートパソコン買ったからデスクトップいらないと言われたんです。そのときワープロも打ったことなかったんですが、おもしろいと思って。
 
松 その中にソフトが入ってたんですか?
 
 
高杉 いえ、当時ガロが『デジタルガロ』を立ち上げたばかりで、おじさんが出てきて、ウンコをプリってするアニメがあって(笑) それがFLASHでできてると知って、電気屋さんでFLASH4を買ってきて、その時はIllustratorもPhotoshopも持っていなくて、マウスで絵を描いてたんです。参考書を10冊くらい読んだらだいたい使えるようになってくるんですよ。
 
高杉 参考書は1ページ目から演習を始めて全部300ページくらいやると、そこそこ使えるようになってた感じです。その後仕事がくるようになりました。
 
松 ちゃんとやってるからですね、通常、本とか参考書も、意外とざっくりと読むじゃないですか。素人さんは自分で演習やると基本とかやったことあるところは飛ばすんですよ。だけど、その飛ばしてるところが実は大事で、ちゃんと一つずつ丁寧に組み上げたというのが大事なんだと思います。仕事になると、みんな求めてるの基本的なことだったりしますからね。イラストの細かいところでも、そんなクオリティが高いものじゃないはずなんですよ。それを知ってる人と知らない人では大違いで、高杉さんは知ってるタイプでしょう。だから、要求に対してもたぶん答えやすいし、自分のやりたいことをそこに入れこみやすい。すごいですね。
 
高杉 趣味でやってたんで。カットもずっと描いたりして、そのうちカットの仕事とかもいろいろもらったり。そうこうしてるうちに……転々としながら今に至ります。
 
松 やれる人は一つじゃないんですよ、今の世界の人ってめちゃめちゃできる人は一つのものを作るんじゃなくて、もともといろんなものを作れるんですよ。デザイナーもそうだし、イラストレーターもそうだけど、作り手だからいろんなものを作れるし、いろんなものを発想できるのに、それを一個にしぼってやってしまうと、本当は続けてやっていたものがここにエッセンスとして色々入れられたはずなのに、入れられなくなってしまい、そこにがんじがらめになってしまう。高杉さんはいろんなことやってるから、今後もまた変わるかもしれないですね。
 
高杉 広がっていくといいなって。
 

デジタルからアナログへ

 

高杉 アナログイラスト自体は4年半くらい前からです。
それ以前はWEBの仕事をしてきたんです。FLASHでアニメーションを作って
サイトのトップを作ったり、ヘッダーを作ったりしていました。
 
山田 もうすでに、装画も何点かお仕事されているので、今のタッチのイメージがありましたが、最近なんですね。
 
松 出てきたときからできあがっていましたからね、もう新人感はないですよ。
このイラストは印象に残りやすいので、そんなに世に出てないとはたぶん思われないでしょう。
 
高杉 ありがとうございます。アナログに転向した頃は、本当に何やっていいのか分かりませんでした。スマホをはじめとするタブレット端末の登場でFLASHの仕事が減り始めた頃と同時期に、「オリジナル作品、紙に描いたものないの?」と言われ始め、アナログでも描けてこそ意味がある気がしてきて転向しました。最初は仕事の依頼を受けると、議員さんの似顔絵から腸内体操のカット等、もう言われるがままに描いていました。何を描こうかと試行錯誤した時期、独学でやろうとしたんですけど、子どももいたのでなかなか進まず……。 10年前に千葉に引っ越して来ましたが、全然知り合いがいないし、どことのつながりもないので、グループ展とか、ワークショップに参加し始めました。それで、ギャラリーダズルで開かれていた実践装画塾に行き始めて、その時、講師の方に「ここは絵を教える場所じゃないから、絵のことを知りたかったら、絵を教えてくれる人のところへ行きなさい」と言われました。「本当にそうだな」って思って、次にイラストレーターの山田博之さんのところへ行って、そこで書いた課題をペーターズギャラリーのコンペに出したら、高橋キンタローさんの次点をもらえたので、「これでいけるのかな!?」って思ってたんですけど、TISのコンペでは箸にも棒にも掛からなくて、きっとこのままじゃだめだなって悩んで。
でももうその時はHBギャラリーでの個展が決まっていて、このままではいけない、でもどうしたらいいのだろう…と悩んでいたある日、描いた絵をインスタにアップしていたのをHBギャラリーの唐仁原多里さんに「これいいね」って言っていただいたのをきっかけに「ああわかった」ってこれを描き始めたんです。
このタッチにし始めてからは割と楽に描けるようになったんですけど、それでも引き出しは狭いなって思うので、もっと描けるように試行錯誤していかないと……。
 
山田 今もWebのお仕事はやられてるんですか?
 
高杉 今はもうやっていないんです。Webってすごく移り変わりが激しくて機材と知識をどんどん入れていく資金と時間と、もう脳の余裕がなくなってきて。そもそもFLASHがダメになりましたし。だから今アナログでやってるんですけど、でも実はこの絵もほぼデジタルなんですよ。ほぼデジタルでラフを作って最後紙に写しています。だから修正はラフの状態で大分できるんです。結構ギリギリまで修正が可能なんですが、写しちゃうとさすがに、なかなか難しいんですけど。構図とかもPhotoshop上で決めるんですよ。
 
松 これも今の時代に理にかなっていて、実はアナログ作業の人の難しい点はそこなんですよ。今って修正が多いじゃないですか。
 
高杉 修正は多いですよ、アナログで、いきなり鉛筆でよく分からない状態でOKを出してしまったら、色とか構図とか、もうちょっとこうなってたんじゃないかって、後で言っても間に合わないんですよ。それがギリギリまでできるというのがいいです。
 
松 そうですよね、最後のアナログに落とし込むだけの作業の手前までデジタルで持っていけるのは。
これは、今後アナログの人に伝えてあげないといけないんじゃないですか。
アナログの人はアナログで、できるだけみんなに見せようと思ってそこだけで完結させると、そのあと困ることになることがありませんか?
 
高杉 そうですね、ある程度デジタルからアナログに移す際に、若干変わってしまうのはあるんですけど。
一応過去の作品を見て色味こんな感じですよっていうのを分かってもらって、線画のラフに加えて、必ず色のラフを出すんです。
ちょっと変わりはするんですけど、だいたいの構成を…ここは大体赤ですよとか、背景グリーンでどうですか、みたいなのまではデジタルで出して。ここはグリーンじゃなくて青にしてって言われたら青にして、じゃあ、これで紙に落としますねという流れです。
 
松 ちゃんと仕事になりますね。一からいろんなものできる人はやっぱりいいですね。
 
高杉 ありがとうございます。ラフがデジタルだと反転もできますし、いくつかの提案もパターン替えで、できるので、割と簡単に出せたりはします。位置をちょっとずらしたりとか。
 
松 ありがたいですね。
 
 

高杉千明(たかすぎちあき)
アクリル絵の具と水彩色鉛筆を使用し、書籍の装画や挿絵を描く。小鳥と犬が好きなイラストレーター。
長崎県出身/千葉県在住
福岡教育大学卒業
実践装画塾4期
山田博之イラストレーション講座10期
坂川栄治の装画塾2016年第1期
【Awards】
ペーターズギャラリーコンペ2015 高橋キンタロー賞次点
第3回 東京装画賞2015 日清紡ペーパープロダクツ賞
第4回 東京装画賞2016 入選
ザ・チョイス 第203回 アルビレオ審査 入選
第35回 ザ・チョイス年度賞大賞
HP:高杉千明 Illustration