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後編では『マイストーリー 私の物語』の具体的な打ち合わせに入ります。

松 今回この『マイストーリー』でどういうものを描くのかですが。

山田 読まれてどうでしたか?

高杉 最後ああいうふうになるっていうのが、本当におもしろかったのでネタバレだけはしないようにと思って。

山田 それをカバーでどういうふうに表現するかってことですよね。

松 山田さんがさっきの高杉さんの絵を見て、もしかしたらその延長にあるかもしれないと仰っていましたが、これってイメージじゃないですか。だからどこまで具体性を持たせるのかっていうのが一番大きいのかなと。顔も見せるんだけど、誰かは分からない、この人どういう人なんだろうと感じさせるくらいがいいのではというのはありました。

高杉 男性が主人公なんですよって見せた方がいいのか? でも男性を描くと華がなくなります……。

松 林真理子さんの読者は女性が多いじゃないですか、私(読み手)との関係性とか、そこを大切にすると林さんの読者層はまず手に取りやすいのかなと。

山田 文庫本ですので、パッと見てわかるようにしようと思っています。松さんがこの『マイストーリー』で芥川賞作家の母親と編集者と関係のような、ミステリアスな部分を全面に出すのも面白いなと感じました。そうすると、どこまでイラストで表せばいいのかが問題ですね。

高杉 主人公は男性でも、話の中心は女性が多いですよね。女性の欲望とか、女同士とか、母と娘であったり……だから女性を描いた方がいいのかなとは思っています。

松 今、高杉さんの売りがそうですしね、あの人の絵だっていうのと掛け合わせた方がいいかもしれないですね。

高杉 女性は複数描いた方がいいんでしょうか?

松 そこが一番難しいですね。複数の女性が絡み合っていて、いろんな「私」があるところで、2人以上というのはありますね。誰のマイストーリーなんだろう?林さんのマイストーリーなんだって思って買う人もいるだろうし、私のマイストーリーを語ってるって思って買う人もいるかもしれない。

松 林さんの読者は今どういうものを読みたいんだろうっていうのがある。例えば自分と向き合いながら、いろんなものを読みたいのであれば、人はあまり多くない方が手に取りやすいだろうし、人との関係がたくさん出てくれば、自分にとってというよりは周りの人にこういうことが起こっていると、自分と距離を置いてみることができる……どっちかな?

山田 自分と向き合うよりは、人間関係でもやもやしている気持ちをスカッとさせたかったり、自分では言えないことを言えるような、行動を起こす主人公に興味が持てたりするのかもしれません。

松 これは暴露本ではないけれど、裏側にどういうものがあるんだろうと思わせるゴシップ的なもの、つまり表から見たらよくあるけれども、内部から見たら結構ドロドロしていると。それを知らされたときのワクワク感もあるだろうから、一般の人が見たことのないものをみれるのがいいんだろうなと。これめっちゃかっこいいですよ、林さんですよって押し出すよりは人間味のある身近な絵なんだろうなと。

山田 そうですね、大切なのは「人間味」ですね。

高杉 これ文庫で帯もありますので見えるところが小さいじゃないですか。あんまりたくさん描くとごちゃごちゃして見えづらくなると思うので、複数いても二人か三人ですね。しかも近くにいて大きい方が絡みが分かりやすいとは思っています。人を小さくさせると、顔は描かないにしても何かさせなきゃいけなくなるんで、動作だけで表さなきゃいけない。でも、そうすると限定されてしまうので、限定されずにと考えるとアップめで、人は重なってるほうがいいのかと。

松 条件は今のところ、人はしっかりいれましょう、でも顔を押し出すのはやめましょうっていうところですね、あと髪型や服装はどうなんだろうと。

高杉 そうですね……たぶん女性に多い長い髪とか、ブラウスとか……。

松 あんまり派手だったり特徴がありすぎなければいいんじゃないでしょうか。自分とかけ離れてないと思わせる方が自分のストーリーかもしれない、というところまで持っていけるんじゃないかと。人それぞれ想像の余地があるということ、シンプルだけどそこを利用して相手に想像させる絵かと。

高杉 自分の絵は人に想像してほしいということをコンセプトに描いてきたので、タイトルも具体的に決めずにやってきました。昔、インスタグラムって正方形じゃないとアップできなかったじゃないですか、携帯で撮って長方形なので切らないといけないんですが、その不自由さが面白い、切ることによっての外側があるのがおもしろいってところで描いてたんです。

松 宇多田ヒカルの『Automatic』のPVみたいですね。スタジオが狭すぎて、狭いのをうまく利用して屈みながら撮ってたんですよ、それがなぜ屈んでるのかと話題になって。宇多田ヒカルみたいになるかも(笑)

松 ラフの書き方について、二つ要望があるんですが、まずは今までの林さんの本を見てほしいんです。今の林さんだったら、こういうものの方がいいんじゃないかと言うのを敢えて出して欲しいんです。この本を手に取る人の年齢層ってどれくらいですか?

山田 30代以上の方々でしょうか。
 

高杉 私世代ですね。

松 例えば、そういう方が今悩んでることとか、求めていること、今の林さんと今までの林さんのイメージとが合致したときに、どういうイラストが出せるかというのを見てみたいです。イラストレーターさんにはこちらが言ったらその方向でやるタイプの人と、自分の中で本当はこうじゃないかと咀嚼するタイプの人もいて、高杉さんは多分両方できると思うので、それを見てみたいです。あとは複雑化しない、単純な構成でさっきの顔を見えない、何か重なってるもの それは分かりやすくて、もしかしたら自分なんじゃないかと思えるような状態になっているというのが一つ。その二つを必須として出してもらえればと思います。たぶんできるんじゃないかと。

高杉 人と同じものをあまり考えられないところがあるので……

松 それがいいんじゃないですか。人と同じものは考えないけれども、いろんな人を見ながら、その人たちのことを考えることができるからいいと思います。

松 仕事を自分で作ろう、取ろうとしてるのがすごく分かります。仕事は受けるものだ、向こうから来るものだと考える人は多いんじゃないですか。賞も受けよう、受けたら仕事が来るんじゃないかと。高杉さんは待っている人ではなく、自分から仕事取ろうとする人ですね。講義した方がいいですよ、賞を取るまで何をしてきたか、何故自分が仕事来るようになったとか、なんとなくでも理解してるはずなんです。それを人に伝えるとまた広がりますよ。

 

高杉千明(たかすぎちあき)
アクリル絵の具と水彩色鉛筆を使用し、書籍の装画や挿絵を描く。小鳥と犬が好きなイラストレーター。
長崎県出身/千葉県在住
福岡教育大学卒業
実践装画塾4期
山田博之イラストレーション講座10期
坂川栄治の装画塾2016年第1期
【Awards】
ペーターズギャラリーコンペ2015 高橋キンタロー賞次点
第3回 東京装画賞2015 日清紡ペーパープロダクツ賞
第4回 東京装画賞2016 入選
ザ・チョイス 第203回 アルビレオ審査 入選
第35回 ザ・チョイス年度賞大賞
HP:高杉千明 Illustration