特集記事

FEATURE
Pocket

イラストレーターの高杉千明さんと松の対談です。前編では高杉さんに仕事に対する姿勢や悩みついて語っていただきました。

自分の描き方と求められるものとの間で

松 せっかくの機会なので、もし何か聞きたいことあれば…。

高杉 たくさんあります!例えば、私は背景をあんまり描かないスタイルなんですが、今は背景をがっつり描く人が多いじゃないですか。今の本は背景がいっぱいあって細かいと思うんですけど、それが何故なのかなって…。

松 理由は大きく分けて抽象的なものと具象的なものとすると、絵を見たことがない人からすれば分かりやすいものっていうのは具象的なものなんですよ。一目見て、すぐに理解ができるような、物語を想像しやすい絵なんですよね。こういう世界でこういう物語が始まります、というのを分かりやすく伝えることができる絵なんです。だから買いやすさがすごく出てる。買うときに情報量が少なすぎるものには手が伸びないんですよ。例えばよくあるキャラ物だとイケメンが欲しい、というならイケメンがいますよというのがはっきり分かると言うようなものがいいんですよね。丁寧に分かりやすくすることで、この本が自分に合っているかということが理解しやすくなる。昔は想像してくださいね、という手法だったのが今は逆なんですよね。

高杉 自分は背景に興味がないんですよ。自分が書きたい絵には背景を必要としてないですし。でも本屋に行くとすごく描き込んでいるものが多いので、描かないといけないのかなと思ったり…。描けなくはないんですけど、描いても背景がすごく細かくて丁寧なイラストレーターさんには敵わないなと思うんですよ。そもそも風景にも興味がないので綺麗な海とかそういうのよりも、トイレや汚いゴミ箱とかそういうものの方が好きですし。仕事だったら描きたくないものも書くけど、どこまで必要なのかというのが自分の中ですごくあって。でもさっきの松さんの話を聞いてすごく腑に落ちましたね。

松 さっきの「仕事だったら」っていう話になるんですが、例えば作中にそういう描写があったら、著者が望んだりした場合は仕事なので描くことになるとは思うんですよ。だけども、「そうじゃない切り口もできるよ」というのを示唆して、それで先方が納得すれば描かなくていいんですよ。結局納得する材料が必要なんですよ。空間の中に何もなくても、何かを感じさせることが出来るかどうかで、出来ればそれを提示すればいい。先方の望んでいる事を探して納得させるものを作って提示するというのが大事なのかもしれないですね。だからこの絵の良さがさっき言った物語をいろいろ感じさせるんです。ここのところはどういうところなのかというのを想起させるんですよね。皆なかなか説明ができないんですができない理由として、先方の提示してくる条件が全てだと思い込んでしまうことなんですよ。例えば緑や森が欲しいと言われて、「木が欲しい」ではなくて「光が欲しいのかもしれない」「さわやかさが欲しいのかもしれない」と相手の言うことから要望を読み解くことが大事なんですよね。

高杉 自分のタッチにその提案を落とし込んでさらに提案して説得力が持てるかどうかですよね。

松 そういう事です。

高杉 いつも自分はこれが好きで、空間が好きなのにがっつり背景を描く事は果たして自分にとって良い事なのかどうかと考える時があるんです。考えた時にそもそも自分の描き方とは違うしがっつり隅から隅まで書いちゃうと自分の良さが無くなってしまうし、それを求めているのだったら別の人に頼めばいいって思ってしまうんですね。でも書店に行くとそういう本が多いのは事実で…。

松 描ける描けないで言うと描けた方がいいけど、大事なのは提案ができるかどうなんですよ。構成力や色のバランスです。やって見たらできるかもしれないんだけど、できないなりの向こうの求めてるものに対して答えを出す必要があるんです。それができなければ仕事にはならないし。

高杉 ちょっと前にあるイラストレーターさんと話した時に、自分の中のルール化したものにしっくりくる何かを落とし込めればいいんだろうなあと思いました。

松 背景が全部具体性を帯びてしまうと、逆にぼかすと言うか曖昧にするところができれば見せ方が変わってくると思うんですよね。実験した方がいい。実験した先に結局この絵なんだから、これしかできませんでしただとなかなか先はないんですが、もったいないなと思うのは仕事をしすぎてその仕事のものになってしまうこと。今はスタートなんですよ、今これで完成しましたではなくて、いまがスタート地点でさらにもっと面白いものがあるよと言うのを提示できればと思うんですよ。いつもあんなんだよね、となってしまうと先がないんですよ。常に実験をしたり仕事以外で何か挑戦したりできればいいんだと思います。

高杉 そういうのは好きなので今後も出来たらいいなと思います。

この仕事を続けていくために

松 話していて、高杉さんは奢る事がなくちゃんと丁寧に見ながらやって行くんだと感じましたよ。いろんなオーダーが来た時に、異変に気づけるんじゃないかと。いっぱい仕事が来てる時に「これでいいんだ」となってしまうのが怖いんですよ。その時に新しいものを作れる人が生き残れるんだと思うんですよね。その時々時応じるものが必要だってことに高杉さんは気づけるだろうと。

高杉 松さんにそんなこと言ってもらえるなんて!描きたいものとか表現したいものを今はまだ表現しきれてないもどかしさがあるんです。自分の中のクリアしたい課題がいくつかあって、さっきの背景のことも自分の中のクリアしたいことの一つなんです。それでさっき松さんのお話を聞いてなるほど、と思うことがあったので…。

松 いっぱい描いた方がいいですよ。切り取った場面の面白さがすごくあるので、みんな想像をしてくれるんだと思う。例えばこれは色々入りすぎて想像が止まってしまうけど、こっちはなんだろう?と想像しやすいんですよね。だから想像を止めないようにすることが大事で、止めそうになったら違う方法があるのではないかと一度立ち止まって考えることです。「自分の絵はこうだ」と決めつけてしまうのは正直逃げだと思ってます。デザイナーもイラストレーターも想像する仕事なのでオーダーが来た時にそれを咀嚼して違う切り口だけどこういうことができますと提案するために、「自分の絵の良いところはこういうところです」と目に見える形、もしくは言葉できちんと説明できる必要があるんですよね。それをせずに自分はこうだから、としていくのはどうかと思うんですよ。そこを心がけていると一度立ち止まる、ということが大切だと。そうじゃないと考えられないから。修正とかあんまりたくさん言われても、全部詰め込むのではなくて、本当に必要なのは何かを考えていくのが大事なんですよ。全部詰め込むのは、違うのではないかと思います。

高杉 説明的になってしまってつまんないんですよね。

松 それが今の絵のスタイルと言えばそうなんですが、それで良いならみんなそれで良いじゃない、となってしまうし、その人に頼む意味がないだろうから、そういうことも常に考えておいた方がいいです。自分で色々と提案できる幅を広げることが大事。色の入れ方とか差し色とかも入ってくるのかもしれないけれど、色とキャラクター性というものがあって、それはすごく重要になってくる。自分のキャラクター性ももう少し幅を広げることが大事。色に関しては全部同じトーンになってしまうと、書店で見たときに違いが出ないので、違いが出るように構図なり色なり変えることが必要なのかなと。

高杉 去年一年くらいしかこのタッチで仕事してないんですけど、描いたもの見て仕事が来るのでこの絵みたいなものでと指定が来るんですよ。

松 みんな結構イメージを持ってしまって。大賞まで取ったのもそうで、高杉さんのイメージがもうついてしまってるんですよね、それを崩すのが1番しんどい。いつも通りでいいですから、と言われてしまうんですよ。だから今のうちに色々やってみて、こんなのもできるよ!って見せていくのが大事なんだと思います。

高杉 いつもの自分とは違う提案をしたときにいつも通りじゃない案はボツにされたという他のイラストレーターさんの話も聞いてて…

松 でも書き手はいろんなものを挑戦したときに実際ちょっとずつ変化しているのに、前の方がいいと言われているのは提示の仕方がまだ早いのか、違うのか…。三、四年続けて飽きたときに、描きたいものがあるのに変えられない自分を見るのがすごくしんどいんだと思います。そうならないためにいろんな自分をプレゼンするのが大事なんです。この絵をデザイナーや編集者などに見せたときに、こう使ったらいいんじゃないかと考えられる人と、この絵をこのまま使うことを考える人と、2通りに分かれるんです。前者の考え方を持つ人は想像を膨らませることができる人で、そんな人はそう多くないんですよ。ストレートに使いたい人はその人の絵を活かそうという、いい考えですけど、それだけなんですよね。そう思ってもらうのは描き手として嬉しい事だけど、そうならないためには自分からの提案が大事になるんですよ。

高杉 それは、この一年間でよく分かりました。描いたものと同じようなものの依頼が来るんだなと。ということは、提案するものは全部バラバラだとダメですけど、ある程度のものを提案しないと、違うかたち(依頼)が来ないんだと。描きたいもの、表現したいものとそれが相まってうまく広げていければ、お互いにとっていいんだろうなと思うんですけど…

松  結局今は保守的で、売れたものに対してもう一回ああいうふうになればいいなという思いがあるんですよね。出版側も売れてもらわないと困るから、変なことをしないでという気持ちもわかるんですよ。若い人なんかそうですけどくすぶってる人も時々いるんですよ。そういう人と当たった時にやってみましょうよって言えるようにやれる機会を作っておかなきゃいけなくて、作るには提案しておかなきゃいけないんですよ。ずっと同じことやってたら売れないとか似たようなものばっかり作ってたら、どうせそれ以上先はないんでしょと気付く人もいて、その時に提案してるもので面白いものがあれば、今まで使えなかったけど、こういうやり方だったら使えるんじゃないかという…可能性としては広がっていくので、おろそかにしないというのはデザイナーもイラストレーターも編集者も同じです。

高杉 試行錯誤もなかなか時間もかかるし、一枚描いただけでは提案にはならないので何枚も描かなきゃいけないと思うんですよね。

後編に続く!

 

高杉千明(たかすぎちあき)
アクリル絵の具と水彩色鉛筆を使用し、書籍の装画や挿絵を描く。小鳥と犬が好きなイラストレーター。
長崎県出身/千葉県在住
福岡教育大学卒業
実践装画塾4期
山田博之イラストレーション講座10期
坂川栄治の装画塾2016年第1期
【Awards】
ペーターズギャラリーコンペ2015 高橋キンタロー賞次点
第3回 東京装画賞2015 日清紡ペーパープロダクツ賞
第4回 東京装画賞2016 入選
ザ・チョイス 第203回 アルビレオ審査 入選
第35回 ザ・チョイス年度賞大賞
HP:高杉千明 Illustration