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イラストレーターの高杉千明さんと松の対談です。後編ではお仕事の今後について語っていただきました。

商業としてのイラストレーター

高杉 今回チョイスの大賞展をきっかけに絵が売れたんです。近くにお勤めの方が偶然絵を買いたいと言ってくれて。大賞の絵を買いたいと言われたんですが、これは記念なので…とお断りさせていただいて、個展の時のこの犬の絵を譲りました。(一応絵は売りますけど、今後HPにも掲載してコンペに使われることもありますので、とは説明をして…。)

松 今がちょうどいいタイミングで、今売り込むのもいいんですよ。というのはここ何年間は売り込みやすい時なんですよね。他の仕事も売り込めそうだなと。本もあってると思うんですけど、それ以外にCDジャケットとかポスターとか…。

高杉 じつはポスターのプレゼンがあったんですけど、落ちたんですよ。ポスターとかもやれるといいなと思いました。

松 この絵なら幅を広げられますし、あんまり本に偏ったものではなくいろんな所に売り込めばいいと思いますよ。今回賞も取ったし、さらにこの1年でどんどんいろんな仕事をした方がいいと思います。同じ土壌でやってたら同じ答えに辿り着くので、これは今なら違うところを勧めます。

高杉 今まであまり営業をしたことがないんですよ

松 俺は送付だけというのはオススメしないんです。実際会うべきだと思うんですよ。合わないとこの人とやれるかどうか、人を知りたいんですよね。高杉さんは恵まれてて、周りが仕事をくれる環境にいるんだろうと。高杉さん自身が発する言葉が信頼される状態なんだろうと。周りの人とコミュニケーション取りながらやれる土壌にいるんだろうと。だからプレゼンたくさんすると広がると思います。

高杉 ほんとにこの仕事去年からやり始めたので、2,3回営業のためにメールを出したんですけど、返事すら返ってこないこともあって、お忙しいので仕方ないとは分かっているのですが、そういう時はやっぱりしょんぼりしちゃうんですよね。

松 会えるならあったほうがいい。今なら賞も取ってこういう仕事してるって言えるので、会いやすいと思いますよ。例えば装丁だけに限ったら結構いるので、何百とか電話すれば1割くらいは会えると思いますよ。広告やパッケージとか。業界電話帳とかあると思うので、そういうのも見ればいいと思います。

高杉 松さんもそういう本から電話を掛けたという記事を読みました。

松 あ、昔ね。何百か掛けましたよ。(高杉さんの)このファイルがあれば仕事になるなと思ってガンガンいきますよ!

高杉 ほんとですか!このままでいいんですかね?

松 もう少し起承転結が欲しいですね。映画に例えるとオープニングがなんか面白そうだ、となったらしばらく見るけど、その間に眠くなったら面白くなかったという事になり、またその間にまた面白い展開があったら面白かったと言えるんですよ。今は大賞をとりましたと。それが最初に興味を引く、その次に何か見せたい絵が続きました。この真ん中くらいに仕事をしたものを載せる。宣伝になるようなものを載せる。最後に仕事してるから信用してくださいね、という意味で連載したものなどを載せる。構成を見てくれる人がちゃんと一個ずつ見たくなるような仕掛けが必要なんです。眠気を覚ますようなものがあったり。飽きさせない工夫が必要。

高杉 そうですよね。セオリーはないけど見る人が楽しめるようなものにしなきゃいけないって事ですよね。なんか自分の絵だとどれもこれもずっと見てるとゲシュタルト崩壊し出すんですよね…。時々自分で分からなくなるのが、いろんなイラストレーターさんいるじゃないですか、すっごい上手い人とかいるのに、その人仕事あんまりしてなかったりするんですよ。技術が全てではないということは分かったんですけど、イラストレーター達で集まるとなぜ仕事がこないのかという話で持ちきりになるんですね。でもそれに答えがはっきり持てないんですよ。

松 一つは、コミュニケーション能力。絵じゃないところで、その人の絵にはあんまり魅力がないけど、この人と話してると楽しいとか、時間ない時に頼むとどうにかしてくれるとか、一回仕事をした人にどれだけいい印象をつけられるかという能力、やりとりが良かったかというところ。一つは、いい絵ってなんですか?ってことなんですよ。すごく描ける人は下手したら単調なんですよ。かっこいいし緻密なんですけど見せ場がないんですよ。綺麗に整った絵っていうのは模様とかと同じなんです。面白い絵というものはその模様の中に嘘だろって色があったり、見るところはここなんだよって教えてくれる絵だったりするんですよ。これに関してはデザイナーとかはいい絵なんだけど使えないんだよね、ってなる理由としては書店に行った時に実はちゃんと浮かない絵が多い。だから仕事にならないんですよね。大概の人は上手すぎて実験や壊すことが出来ない。もう一つ、陥りがちになるのがすごく上手くて見せ場もあるけどコミュニケーション能力がない人は、オーダーが来た時に「いやそれはやりたくないです。これで完結なんです」と言ってしまうんですよ。それができないなら、それができないなりの提案はないんですかと。それはクライアント側からしたら不服で、仕事にならないんですよ。お金を払えないんです。お得感がないとそれは成立しないんですよ。

高杉 なるほど。そうか、そういうことか…。

松 あくまで言えるのは商業だって事なんですよ。商業の場合は何かそこにメリットがあるはずなんですよ。クライアントや著者やデザイナーの意見を料理出来る人が優秀とされる世界なので、それがプロなんですよ。今残ってる人たちはそういう人達なんですよ。エンターテイナーになれるように自分から仕向けることが必要ですよ。

高杉 つまりイラストレーターは絵を描く人だけど、絵によってコミュニケーションを取れなきゃいけないって事ですよね。昔仕事をした時にターゲットユーザーとかマーケティングしてあって、誰を使うか剪定してあって凄いなと思ったんですけど、そういうのも踏まえて自分の絵で「買ってね」というのを伝えなきゃいけないんですよね。イラストレーターというのがどういう仕事なのか分かって来た気がします。同業者だけだと答えが出ないし分からなくなるんですよ。

松 同業者とは一緒に仕事をしないですからね。プレゼンをたくさんして会って話しをした方がいいというのはそういう事なんです。

高杉 そうですね、私も営業することを考えます。

松 営業して、同じことを必ず言われると思います。おそらくそこは使う時にこうしたらいいな、という不満点を言っている可能性があるので、それはチャンスなんです。それが見えたらそれを覚えていて、次の機会に調整していけば仕事になる絵になると思いますよ。

高杉 なるほど。ファイルって、自分の中では完成した!と思えるものはなかなか作れなくて、今のベストを見せに行く、というものでいいんでしょうか?

松 それはタイミングなんですよ。例えばこの本がベストセラーになりましたと。それを持っていけば編集者やデザイナーも、「あの絵だ」となるんですよ。そういう意味で、タイミングがすごく大事で、今のここ数ヶ月はいいタイミングだと思いますよ。自分は大賞を取ったぞ、会ってみないか!という感じで(笑)

高杉 今回、DMは知ってる人や名刺交換した人には全部出しました(笑)。今までコンペで考えて来たけど売り込みは考えたことなかったので、売り込みを考えようと思います。

松 仕事に直結する人にアピールしていくことが大事だと思いますね。私がそういうふうにして来たので。行ってみて色々言われて後から悩むのはいくらでも悩めばいいんですよ。

高杉 そうですね、心臓がタワシになるくらいにならないと…。頑張ってみます。自分がもやもやしてた事を今松さんと話して綺麗に整理整頓されてスッとしました!

松 あとは仕事以外の今を知ることが大事ですね。今こんなものが流行ってましたよ、こんな映画見ました、こんなもの食べました、ということが提案に繋がるんですよ。それが出来るのと出来ないのでは大きな違いになるんです。

高杉 もう今日のお話は全部心に刻みます。自分から動く…。半年後に松さんに、高杉さんプププって言われないようにしないと…。

松 仕事でたくさん見かけるようになったらもう逆に松さんとは仕事しませんよって言われそうですね(笑)。

高杉 そんな、這ってでもしますよ!(笑)

 

高杉千明(たかすぎちあき)
アクリル絵の具と水彩色鉛筆を使用し、書籍の装画や挿絵を描く。小鳥と犬が好きなイラストレーター。
長崎県出身/千葉県在住
福岡教育大学卒業
実践装画塾4期
山田博之イラストレーション講座10期
坂川栄治の装画塾2016年第1期
【Awards】
ペーターズギャラリーコンペ2015 高橋キンタロー賞次点
第3回 東京装画賞2015 日清紡ペーパープロダクツ賞
第4回 東京装画賞2016 入選
ザ・チョイス 第203回 アルビレオ審査 入選
第35回 ザ・チョイス年度賞大賞
HP:高杉千明 Illustration