『青くて痛くて脆い』の装画を手がけられた、イラストレーターのふすいさんに制作秘話をお聞きしました。イラストレーターの方々にも参考になる、必見の情報が満載です。装丁を担当した築地と松がお話を伺います。
依頼を受けた時のプレッシャー
松 住野よるさんの作品は読んだことはありましたか?
ふすい 『君の膵臓をたべたい』を読んだことがあります。『青くて痛くて脆い』は、もともと「文芸カドカワ」で連載されていたのを知っていて、この作品の表紙を担当することが出来たらなあ、とぼんやり考えていました。割と僕の絵は哀愁が漂う、情緒ある絵だと思っているので合う気もしてて、もしかしたら依頼が来るかもしれないな…なんて思っていましたね。
築地 では、お仕事が現実になって驚いたんじゃないですか?
ふすい もちろん驚きはしたのですが、本当に来るとは思っていなかったので1日悩みました。読者の方々には、「住野よるさんの装画= loundrawさん」というイメージが定着していると思うんです。「次の新作もloundrawさんかな?」という読者さんのツイートを見かけたこともあり、余計にプレッシャーを感じました。今回自分が担当して、はたして読者の方々に受け入れてもらえるのだろうか、と。
松 それで、いざ依頼を受けることになったわけですが、緊張されていましたか?
ふすい 今までにないくらい緊張しましたね。打ち合わせで「住野さんの作品は青い装丁が多いので、緑でいきましょう。」というご提案を頂いて、大樹を描こうという話にはなったのですが松さんから「今まで以上に細かい、葉っぱも1枚1枚わかるくらいの細かさで。」と、とんでもないご要望を頂きました(笑)。打ち合わせ時のラフはこれです。ゲラを読んだ時にタイトルのイメージから大学の背景に二人が居る、というイメージは持っていました。
松 時間が相当かかるという事も分かった上でお願いしました。ふすいさんが普段描く植物を超越したさらに細やかなイラストが世に出たら、どんな絵になるか興味があったんです。
ふすい そのイメージを聞いた時は頭が真っ白になりましたね。松さん、本気ですか?と(笑)。
築地 打ち合わせをする前から松とその話をしていたんです。細かいものを描いて頂きたいなと。時間のことももちろん考えましたが、ふすいさんならいける、という信頼がありました。
松 私も普段あそこまで言わないんですよ。ふすいさんとは、今までのやりとりから色々オーダーをかけても次々と乗り越えてくれるので、今回のこの作品をお願いするにあたって、今までの住野さんの作品を担当されていた方々を凌駕するものを出してくれるだろうと。今までに無いものに挑戦して貰いたいという思いがあったんです。
構図を決めるまで
ふすい 制作に至るまでの話なんですが、ゲラを読んでからまず資料を探していたんですね。でも探しているうちに、実際にロケハンをしないと描けないなと思ったんです。そこで、いろんな場所をピックアップして、楓と秋吉になりきってロケハンをしたんです。これは東京大学なんですが、この場所に自分で立ってみて、楓が携帯で検索しているポーズをしてみたり…。
築地 ロケハンでそのキャラクターになりきるって珍しいですよね。大体その場所の風景を撮影して、というのが普通だと思いますが。
ふすい 役者っぽくいこうと(笑)。演じきった後にその場所を見てみると、本当に二人が居るように見えるんですよ。これだったら作品の世界観に合うだろうと感じたところを300枚〜400枚撮影しました。
松 撮影だけでもかなり時間がかかったのでは?
ふすい 丸二日かかりましたね。冬は日没が早いので、急いで撮影しました。
松 その場所が良いなと感じたのは何故ですか?
ふすい 大学が舞台だということもありますが、楓の孤独な気持ちと、秋吉の夢と現実の狭間にいる気持ち…。青春なんだけど脆い、というのを敢えて哀愁のある、読み終わった後に見るとさらに心が抉られるようなテイストにしようと思ったんです。
背景の緻密な描き込み
松 イラストは細かい部分が多いですがどのようにして描かれているんでしょうか?
ふすい 今回は普段と描き方を変えているんです。いつもは葉っぱの形のブラシを作ってそれを使うことが多いのですが、今回は全て手書きなんです。
松、築地 え!?(目を見開いて驚いている)
ふすい 実はそうなんです(笑)。この線画を見ていただければわかると思います。
ちなみに動画も撮ってみたんです。
(限定公開のため、こちらのリンクからご覧ください。)
ふすい 線画だけをとりあえず仕上げて、葉っぱが今回重視されると思ったので、大体形が出来あがったところでクリーンアップしていきました。
松 これは…凄いなぁ。勉強になるけどやりたくはないな(笑)。
築地 ぞっとしますね…。
ふすい 次に人物も、こうやって線に起こしていきました。『青くて痛くて脆い』というタイトルなので、お互いのスカートとパーカーを青くして影を入れて、光を入れて行くという…。鳩も黒くすると意味が強すぎるので、白にしました。
限定カバーこぼれ話
松 今回は書店ごとに限定カバーの絵も描かれていますね。
ふすい ちなみに…限定カバーのこの看板、実はよく見ると「真実と嘘」と書いてあるんです。
築地 本当だ〜!!気付かなかった〜!!
ふすい これに気付いた読者さんがチラホラいて、鳥肌がたった、ゾクッとしたという感想をSNSみかけました。気付いてもらえると嬉しいですね。
松 このカバーを今回作ってみて、今までふすいさんがやってきたものと変わったことや違いを感じた部分はありますか?
ふすい 今までは細部まで描き込むことが多かったんですが、今回は目立つ部分と抜きの部分をこうすると奥まで書かなくても緩急が付くな、とか全体の世界観が美しく仕上がるなと感じました。バランスがわかると奥行きも増しました。
ふすい(Fusui)
フリーランスのイラストレーター。協同組合 日本イラストレーション協会 JiLLA 組合員。細部まで描き込まれた背景、光や透明感、空気感等、独特なタッチを特徴としている。人物だけでなく、風景にも表情が伝わるよう心理描写を入れ、叙情的な作風が魅力。現在までに、住野よる『青くて痛くて脆い』(KADOKAWA)、櫻井千姫『70年分の夏を君に捧ぐ』(スターツ出版)、仲町六絵『京都西陣なごみ植物店』シリーズ(PHP研究所)、友井羊『スイーツレシピで謎解きを』(集英社)など、数多くの小説作品の装画、挿絵を担当している。装画のみならず、天月×96猫「打上花火(歌ってみた/cover)」(ドワンゴ)のMVイラスト、三月のパンタシア「風の声を聴きながら」(SONYMUSIC)のCDジャケットなど、音楽関連のイラストも手掛けている。上記以外にも、児童書、教育事業関連、広告など、ジャンルを問わず、幅広く活動している。
HP:FUSUIGRAPHICS
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ギャラリーインタビュー記事:Pickupイラストレーター#002ふすい